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えーる



夏の大会初戦、甲子園への切符がかかった初戦。私たち桐青は夢の甲子園の土を踏んだことがある。厳密に言え
ば、踏んだのはベンチ入りしたメンバーの中でも試合に出られた人で、とりあえず本当に土を踏んだ人数は数少ない
んだろうな。だから和さんも言ってた通り大事な初戦を突破する。また甘いことを考えてたら負ける。だから、うちだっ
て準太だって利央だって、勿論3年の和さんとかはもっともっと気を引き締めて望んだはずだった。ぶっちゃけてしま
えば、抽選会の時、西浦のキャプテン(なんか身長高くて坊主の子)がうちを引き当ててくれた時はもう「勝った」と思っ
た。そりゃあ昨年度の優勝校のうちに対して今年硬式に代わったばかりの1年だけのチームだとしたら誰もがうち等
桐青が勝つと予想しただろう。少なくとも両方の指を使って数えられなくなるほどの人数の自信はある。しかも、監督
が女っていうめったにないタイプだから1年だけ+女監督=桐青の勝ちっていう数式が頭の中でうようよしてた。だか
ら、同点での九回とか、よく覚えてないけどこんなギリの試合になるだなんて、アルプスにいるこの何百人というメン
バーのうち、何人が予測できただろうか。勿論、ベンチにいる部員、監督も含めたらどれだけの人が予測できただろ
うか。うちは少なくとも片手で数えられるぐらいいるか、いないかだと思った。だから、負けるなんて思ってなかった。こ
んなこと言っちゃあなんだけど、まだうちや準太とか2年はチャンスが1回ある。利央とか迅とかだったらなおさらで、
1年はあと2回ある。だけど和さんたちはもう終わりだから、チャンスはない。一番落ち込みが激しいのは準太だ。和
さんと一緒にいる時間が長かったら(投手と捕手だから)かもしれないけど、3年が引退したあとのこの寂しい部活に
力が入っていないように見える最近。そりゃあ去年の優勝校が初戦敗退、しかも1年だけのチームに負けたって言っ
たら、悔しいし悲しいけど他の部員はその分頑張ってやろうぜ!っていう気がした。準太だけ違った。





「またサボるつもり?今日で何日目だと思ってんの」

「名前には関係ねえ」

「関係あるの、準太が部活に行ってくれなきゃうちも行けない」





準太の眼はあいかわらず沈んでて、某銀髪天パの侍漫画の主人公のような眼をしている。ぞくにいう、死んだ魚の
眼ってやつだと思う。気持ちもわかるけど、引きずってたって何も変わらないし、勝てるわけでもない。それに、だい
たい和さんがこのようなことを望むだろうか。準太は今何を感じて何を思っているのだろうか。





「ねえ準太、さよならは悲しい言葉じゃないんだよ」






何を言ってるんだ、後悔したけどもう言っちゃったことは言っちゃったことなので撤回なんてできない。あ、
前言撤回って言えばいいのか?でも、もう準太には聞こえちゃっただろうから手遅れだなあ、って思って
たらやっぱり準太は今にも泣きそうな顔をしていた。うちはあの時マウンドに立っていなかったから、準太
のその時の気持ちとか、打たれたときの心境とか、気持ちとか、想いとか、全然理解できないしわかんな
いし何もいえない。




「今の準太の気持ちとか全然わかんない、だけどいつまでもこんなことしてたって駄目じゃん!別に負けたから準
太の居場所がなくなるわけじゃない、負けたからもう次にいけないわけじゃない、まだ秋の大会とかあるじゃん!
また来年になったらこの時期になったら、またチャンスがくるじゃん!だから、準太が、そんなに、背負い込まなく
ても、い、いじゃん、うち、とかっ、頼りに、ならないけどっりおっ、とかっ、み、みんなっ、いるじゃんか!」





言っちゃった、泣いちゃった。せっかくならキッパリと最後まで格好よく言い切りたかったのに、泣いちゃったじゃん
かあ。うちだって負けたのは悔しいよ、何も思わなかったわけじゃあないもん。頑張ってこらえてたのにっ!でも、こ
れで復活してくれればいいんだけど、ってうちは真剣に考えてたのに準太がいきなり震えだした。





「え、どうしたの?ご、ごめん言い過ぎた?」

「…く、くく、…」

「わ、わらってる…?」

「だって名前おもしれえんだもん、さっ最後泣きながらとか!やべ、ツボった」





そうだ、こいつはツボがおかしいんだ。ここまでめっちゃシリアスにきたのにお前せいで水の泡じゃーっ!でも、まあ
最終的に復活してくれたので今日のところは許すとしよう。





「なあ、名前」

「なにー?部活行く気になった?」

「行くけど、その前にさ」





その前に?って聞き返したらふわあって準太の匂いがした。ってかうち変態みたいじゃん!でも本当にしたんだも
ん、準太の匂いがしたんだもん、うそじゃないよ!ああああ、とっさのことで思考回路が爆発して冷静に判断がくだ
せなくなっちゃってるよ、だだだだ、だってええ、今っ、今、準太に、抱きしめられてる!





「あ、あのー、いやこれは…」

「泣いていい?」





初めて見たすごく弱弱しい準太、さっきまで笑ってたと思ったら今度は泣くのかよ、忙しいやつだなあ。って思ったけ
ど今日は特別、泣かしてあげようなんてふざけて言ってみたら、かっこわりーなオレって返された。別にかっこわるく
ないよ、準太はかっこいいよ、って心の中で言ってみた。







準さんじゃない… 参考はいきものがかりのYELL
09/11/21 @ ぱこ 




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