.星月学園
それはお昼時、本来なら弁当を食べている時間帯、私はいそいそと着替えていた。カーテンを閉めきった空間の中で、聞こえてくるのは服の擦れる音と私の溜息。そして、カーテン越しに僅かペンを走らせる音が聞こえる。不意にその音が止まった。
「…凪、もうそろそろいいか?」
少し低めのこちらを伺う声に曖昧な返事を零す。赤いフレームの眼鏡を掛けながら、カーテンの隙間から覗けば欠伸を零し伸びをしている。相変わらずな姿に呆れながらカーテンを開ける。
「どう?」
「おっ、なかなか似合ってるぞ」
ちゃんと男子に見える、喜んでいいのか分からない事を言われて思わず苦笑いをする。優しく笑うお兄ちゃんに自分も自然な笑顔で返した。
「まぁ、何かあったら言えよ」
わしゃわしゃと頭を撫でられる。お兄ちゃん、否、星月先生とは親戚で小さい頃からこうやって頭を撫でられるのが好きだった。折角セットした髪の毛がくしゃくしゃになったけど嬉しいから別にいい。
「ほら、早く担任の所に行ってやれ」
「はいはい」
軽く手を振って保健室を出る。前の学校よりも綺麗だし無駄に緊張する。軽く伸びをすれば微笑が零れた。念願の星月学園。昔から星が好きだった私はお兄ちゃんに進められて、転校という形で編入を決めた。男として。廊下を言われた通りに突き進めば職員室と書かれたプレートの部屋が見えてきた。
ノックして扉を開ければ先生の数は疎ら。取り敢えず近くの先生に話し掛けて事情を説明すれば"陽日先生"という人を呼んでくれた。明るい髪に明るい雰囲気。全体的にお兄ちゃんより背が小さい。ぺこり、軽く頭を下げる。
「はじめまして、相川那智です」
「おう!オレは陽日直獅だ、よろしくな!」
ついでに頭もポンポンされる。いかにも熱血教師な感じで、苦笑いしながらこっそり溜息を吐いた。
「それにしても、また男子かぁ…」
びくりっ肩が揺れる。眼鏡の効果か分からないけど、取り敢えず男子として見られた事に安堵の息を零す。前にお兄ちゃんから聞いた気がする。一人だけ女子がいると。まるで逆ハーレムだよなぁ、なんて他人事のように考える。私も気を付けなきゃいけないんだろうけど。
そのまま陽日先生と雑談しながら校内を案内されて1日過ぎていった。これから私の男としての学園生活が始まる。
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