飴と鞭
×仁王と丸井
気持ち悪いから吐く。どうしても吐けないときは口の奥に指突っ込んで無理矢理吐く。そうして出てきた胃液を愛おしく掻き混ぜる。 グチャ グチャ グチョッ、ただ手と床が汚れるだけの行為でも、俺は時折こうして胃液を吐かなければいけない。誰が決めたわけでもないしそうしないと死んじゃうわけでもないけど、俺が俺で居られなくなってしまう気がして止められないの。何でもいいから口から吐いて楽になりたい、あの余韻に浸ってそのまま現実逃避してしまいたい。そうしたら全部楽になるのに。
俺、疲れちゃったの。ブン太は無表情でそう言った。
放課後、今日は部活が無いから久しぶりに寄り道でもしようと思っとったら財布を教室に忘れた事に気付いた。仕方なく来た道を戻ってきたらブン太が教室でうずくまっとった。何しとんのかと思って近づけば、ブン太の周りは吐瀉物でいっぱいだった。
「なにしとんの」
「吐いたの愛でてたの」
「手汚れとるよ」
「いいの」
「床も、掃除せんといかんよ」
「仁王がやれば」
「嫌じゃ、このわがままブン太め」
「うるせぇ、エロ仁王」
「え、ありがとう」
「褒めてねぇし」
「えー」
「てか、引いた?」
「いんや、別に」
「へー、さすが変人仲間」
「お前と一緒にすんな」
無邪気な子供みたいな顔して何が「引いた?」じゃ。知っとるよ、本当は。お前がいつも食べた後必ず吐いてることとかたまにトイレに一人で閉じ篭って泣いてることとかいろいろ。でもそうやって苦しんでるところを見られんのが怖いのも俺は知っとる。馬鹿じゃのう、この胃液みたいに全部吐き出せたら楽なのにね。でも俺はブン太を救ってなんかやらない、このままこうして苦しんでいればいい。吐いて吐いて胃の中のもの全部吐き出すまで這い蹲っていればいい。
「無理しちゃいかんよ」
「…!」
でも今はこうして、背中をさすってやらないこともない。
「「お前なんか大嫌い!!」」
(最悪、最悪、最悪!!)
(朦朧とした意識の端で、仁王の言葉に絶望した)
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