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ペコちゃん


×仁王と丸井




ある日の午後、俺は膨れた腹を労るように机に突っ伏して惰眠を貪っていた。外は澄み渡るような青空で日光が心地良い、ああ窓側の席でよかったなんて少しの優越感に浸ってうとうとしていたら遠慮がちに肩をつつかれた。誰じゃ俺の安眠を邪魔しようとすんのはとあからさまに不機嫌な顔をして上半身を起こすと、そこには見たことあるような同じクラスらしき女子が俺を見て微笑んでいた。



「……なん、」
「仁王、飴あげるー」
「あ、りがとう」
「いーえ」



名前も知らない女子は不機嫌な俺を諸ともせず、飴玉一つを俺に手渡して勝手に満足して去って行った。俺はいまいち状況が理解出来なくて、手の中にはペコちゃんが眩しいくらいの笑顔で転がっていた。


「なー仁王いいの?」
「何が」
「今の岡田だろ?あいつお前の事好きって有名じゃん」
「ふーん」
「ふーんて…いいよなぁモテる奴は」
「顔も名前も知らん奴に好かれても嬉しくないしのぅ」
「えぇーそんなもん?」
「うん、そんなもん」
「ふーん」



さっきの女子が俺のことをどう思っていようが俺にはぶっちゃけ関係無い、もし告白されてもきっとその時の気分で返事でもしてやればいい。そんなことしてるからすぐ別れるんかなって思うけど、人の告白なんて真に受けたら重過ぎて俺は投げ出してしまうだろう。他人が俺に吹き付ける恋情は、俺には大きくて重くて受け止めたら前進の皮膚を切り刻まれてしまうんだ。



「あ」
「あ、丸井」
「なに」
「お前さん同じクラスの岡田って知っとる?」
「誰それ知らね」
「俺んこと好きなんじゃって」
「ふーん良かったねにおーくん」
「うんありがとうまるいくん」
「それよりさーなんか飴かガム持ってね?」
「あー…」


丸井に言われてスラックスのズボンを探ればころりと小さな塊がひとつ指先を掠めた。それがさっきの女子がくれたものだと理解するのに時間はかからなかった、が、それは短時間の間に俺の体温によって表面が溶けてしまったらしくベタベタと不愉快な粘りを持っていた。これを人にあげるのはどうかと思ったが相手は丸井だし、と考えを即座に変えて手渡してやった。丸井はベタベタなペコちゃんを受け取って「サンキュー!」なんて言ってそれはそれは満面の笑みで口に放り込んで去っていった。よくあんな生暖かいベタついたもん食えるの、とある意味尊敬しながら俺は再度自分の席に戻り惰眠を食う。左手にはいつまでもペコちゃんの笑顔とベタついた感触がこびりついている。












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