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雨の降った日


 大変だったのでしょうに、などと知った振りをするのが一番嫌いだ。実際に痛みを分かるはずもなく、なのに朝に一分間に黙祷など捧げて。そんな捻くれた事を思いながら、課題図書のページを捲った。まぁ偽善という言葉の最も似合う私の学校らしく、この日に誂えたような内容の生々しいやつ。救いの見られないやつ。

「あ、懶さん課題図書読んでるんだぁ。あたしこわくてそーゆーの読めないから尊敬するー」

 クラスの井川さん、可愛い顔をして可愛い声をして、そんな残酷なことを言うのね。
 ちゃんと読むと為になるわよ、とだけ返すと彼女は、そおかなあ、なんてあ行音を強調気味に阿呆の子らしく返事した。

 こんなものを読んで感傷的に浸るのなんてうんざりなのに、知らない自分が苛立たしくてまたページを捲る。また、紙とインクが惨たらしく人を殺した。

「でも昔は大変だったよねー、あたしぜーったい無理だもん」
「……そう、かしらね」

 ──“大変だったのでしょうに、などと知った振りをするのが一番嫌いだ。”なんて、ね、言えるわけもなく私は未だ中盤火の海を彷徨う主人公を放って、本を閉じた。

「……帰るわ」
「えー、懶さん忙しそうだよねっ、バイトとか?」

 なおも子犬の様な瞳で井川さんは私に笑う。そんな彼女に言ってやれることなど。

「大したことじゃないのよ、じゃあね」

(どうして?)
(なんで?)
(そう彼女に尋ね返していたら、もしかしたら、)

 結局偽善という言葉の最も似合う私は、なんの感慨もないまま、その本を読み終えてしまうの。

(大変だったのでしょうに、お辛いでしょう)
(知った口をきくまでもない、無関係にすら無関心な私)



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話が話だけに ううむ
ノーコメントで

090809


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