ロイ失明小咄二本です。
これを書いた時点では最終回は知りませんので、色々と捏造してます。
それでも大丈夫な方はどうぞ!







「本当に…見えないんだな」

「あぁ…」

白く濁った瞳。ついさっきまでは漆黒で、まるで吸い込まれそうな色だったのに、今は真逆の色だ。
もうこの瞳に俺の姿が映ることはない。

「これからどうすんだよ」

目が見えないとなれば軍で働いていくことは不可能などころか、私生活すら今までのようにいかない。
視界が消えたどころか、夢見た未来すら奪われた。

「そうだね…とりあえずは一人で生活できるように訓練しないとな」

苦笑を漏らす大佐。
どうして笑ってられんだよ。

「…泣いてるのか?」

「泣いてねえよっ」

「嘘を吐くな。君のことは見えなくてもわかる」

まるで見えているかのように手が伸びてきて、オレの涙を拭う。
きっと泣きたいのは大佐の方のはずだ。だけどこの人は泣かない。オレと似てて意地っ張りだし。

「オレの前でくらい弱音吐けよ。今まで支えてきてくれた分、今度はオレが支えてやる」

オレ達の旅は終わったんだ。ずっと側にいられる。
大佐の目の代わりに。それがオレにできること。

「君には輝かしい未来があるんだ。私には構わず自由に」

「あぁ、自由にするさ。だからアンタの側にいる。オレがそう決めたんだ」

引き寄せられ強く抱き締められたと思ったら、肩口に大佐が顔を埋めた。
久々に間近に感じる体温。嗅ぎ慣れた懐かしい匂いが、鼻を刺激する。

「君って子は…」

僅かに震えた声が、耳元で聞こえて、オレはそっと手で背中を撫でた。

オレの道を照らしてくれたのは大佐だった。だから今度はオレが大佐の道を照らす番だ。


苦汁が多かった二人に、これから先それ以上の幸せが訪れますように――



Fin


――――――――――




あの日から二年の月日が経った。
暗闇の中での慣れない生活は、短かったようにも長かったようにも感じる。

「飯できたぞ。今日はシチューにした」

ふぅふぅと冷ましてから、私の口へと運ばれるシチューが、口の中全体に広がる。
あぁ、うまい。

「いつもありがとう」

「なんだよ急に、改まって」

今彼の顔はほんのり朱に染まっているだろう。私に浮かぶのは二年前の姿のまま。
エドはあの日から私の傍に付き添って、毎日世話を焼いてくれている。最初は体を取り戻したばかりのアルフォンスとの三人暮らしだったが、一人で日常生活を送れる程に回復した彼は、リゼンブールへ帰った。本当はエドも一緒に帰りたかっただろうに、それを引き止めてしまったのは私だ。
すまないと思う反面、私といることを選んでくれたことが嬉しかった。

「君がいなかったら、きっと私はとっくに生きることを諦めていたよ」

私に訪れた暗黒の世界は、一人で生きていくには、絶大な絶望感を与えるには効果てきめんだったに違いない。

「今となって視力を奪われて悔しいだとかはもう言わないが…君の成長する姿がこの目で見れないのが唯一悲しいな」

エドと出会ってから、強く美しく成長していく君を見守るのが、私の楽しみでもあった。だが、今では二年前から私の中では成長が止まったままだ。

「なら…触って感じてよ」

掴まれた手が、そのままエドの頬へと寄せられる。幾分かシャープになっただろうか。声も少し低くなったくらいだ。きっと誰をも魅了する青年に成長しているんだろう。

「前にオレの体のことを一番知ってるって言ったのはロイだろ?見えないならその分触って感じろよ」

君はいつだって私の光だ。
何も映さなくなったこの両の目が、君の笑顔を映した気がした。
十八歳の君の笑顔を。


Fin




あきゅろす。
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