「泊めて」

金色の子は夜に突然やって来て、私が返事をする前に、さっさっと家の中に入りリビングのソファを陣取っている。
何を話し掛けても返事はない。これじゃあデカい独り言だと苦笑し、コーヒーと彼の分の紅茶を淹れ、黙りこくって銀時計を眺めている彼の前にカップを置く。
きっと銀時計の中に何かあるのだろう。前に時間を尋ねられ、銀時計があるだろと言ったら壊れてると言っていた。修理に出せと申請書を渡そうとしたら(貴重な物なので軍に申請して修理しなければならない)、普段は使わないからとか、何だかんだと言って修理を拒否した。見られたくない何かがあるのは明らかだ。
隣に腰を下ろし、コーヒーを一口飲む。

「君がその銀時計の中に何を隠してるのか、今何を考えているのかは私にはわからない。話したくないなら聞くこともしない。ただせっかく一緒にいるんだ、少しは声を聞かせてほしいな」

また独り言になるかもしれないのを覚悟して話し掛ければ、初めて金の瞳が私の顔を映した。
いつ見ても綺麗な色だ。

「ごめん。急に来て…やっぱり帰る」

すくりと立ち上がり、来た時と同じようにさっさっと帰ろうとする彼の腕を掴み抱き寄せる。
久しぶりに会えたのに、会話がこれだけなのは寂しいにも程がある。
小さい(本人に言ったら殴られるが)体をギュッと抱き締めると、シャワーを浴びてから来たのだろうか、シャンプーの香りが鼻をくすぐった。

「なんだよ…俺帰りたいんだけど」

「残念だがそれは却下だ。寂しいんだ。今日は一緒にいてくれ」

何かを求めて私の所にやって来てくれた彼を、このまま帰すことはしたくないし、寂しいと言うのも本当だ。
彼が私を求めたように、私も彼を求めている。一秒でも多く時間を共有したい。

「……仕方ねぇな」

そう言いながら、彼はそっと私の背中に腕を回した。
彼が何を隠してるかなんて、どうでもいい。私にだって秘密にしていることなどたくさんある。
ただお互いにお互いの存在が必要なんだ。至ってシンプルだが、関係としては意外と複雑でもある。
私にとって彼は部下であり、友人であり、弟(些か歳が離れ過ぎかもしれない)のようなものであり、恋人だ。ただ好きだからじゃ言い表せない。
彼にとっても、私はきっとそういう存在なのだろう。
彼と過ごす時間は、一年の内一カ月にも満たない。電話もゼロに近い。その上、会ったとしても甘いムードは微塵もないまま別れる時だってある。
普通の恋人からしたら、それは本当に付き合ってると言えるのかと言われそうだ。
異質に見えるかもしれない。
異質で結構。端から私達が付き合ってる時点で、世間から見れば受け入れ難い光景なのだ。十四も歳が離れ、子供の上に同性。犯罪だと言われたら、反抗もできやしない。
だから、私達の関係が異質だと言われたところで、そんなことは些細なことだ。

「今日は泊まってくだろ?」

「一人で寂しいって泣きつくオッサンがいるから仕方なくだぞ!し・か・た・な・く、泊まってやる」

相変わらずの減らず口だ。
しかし少しは元気になってくれたようだし、良しとするか。

「ありがとう」

腕の中にいる子供の額に、そっと口付けた。



fin




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