「さっみー!」
司令部から出た途端、デカい体を小さくする少尉。寒い寒いと連呼しているが、少尉は軍服の上に冬用のコート(前はしっかりとめている)、それにマフラーを巻いている。十分に暖かそうだ。
「オレより着込んでるくせに何言ってんだよ」
「仕方ねぇだろ?寒いもんは寒いんだからよー」
今からこんなに寒がってて、本格的に冬が到来したら、どうするつもりなんだか。雪ダルマみたいになるくらいまで服を着込む気か?それはそれで少し見てみたいけど。
「そんなにさみーなら車で来りゃあ良かっただろ?」
少尉は普段通勤には車を使っている。それなのに、ここ最近の一番の冷え込みになると予想されてた今日に限って、車ではなく徒歩で出勤したらしい。言ってることとやってることがチグハグだろ。
「大将が帰って来るって言うからさ、一緒にこうやって歩きたかったんだよ」
タバコに火を付けニカッと笑い、「お散歩デートッスよ」と言ってくる。
これがデートと呼べるのか?っていう疑問は、心の中に閉まっておいた。
例え短い道でも、オレもこうやって少尉と並んで歩くのは好きだ。
「家に飯の材料あんの?」
「んー…二人分にするにはちっと少ないかも。明日の朝飯が無くてもいいなら足りるぜ?」
「却下。朝食わねぇと頭働かねえし、力も出ないぞ!」
朝飯の力を侮っちゃいけない。食べないと脳や体の働きにも影響する。体内リズムも狂うらしい(オレは日頃から生活リズムがズレてる方が多いけど)。
軍人は体力勝負だ。いざって時に腹が減って力が出ないんじゃ困る。
「少し材料買って帰ろうぜ」
歩きだからまとめ買いは無理だけど、数日分の材料くらいなら持って帰れる。都合のいいことに、店も帰り道の途中にあるしな。
「飯何食いたい?」
料理はオレの担当だ。前に一回作ってやったら、いたく気に入ったらしい。それからというもの、少尉の家に行く時はオレが作るのが当たり前になった。
「大将の作った料理ならなんでも」
「なんでもが一番困るんだけど」
そんな家族でよくありそうな会話をしながら、明日の朝食べるようにとパンを買う。この前はシチューだったから、今日はハンバーグにでもするかと、肉を買ってついでにベーコンも。野菜は必要な物と日持ちする物も買った。
全部買ってから買い過ぎたと後悔しても、時既に遅し。こんなに買うつもりはなかったのに、最終的には二人の両手は完全に塞がってしまった。
大量の荷物を抱え、二人で重い重いとひぃひぃ言いながら家に帰った。
ご飯も食べて風呂も入って、冷えない内にと二人で布団に潜り込む。少尉のベッドはタバコの匂いが染み付いてて、せっかく風呂に入ったのに、朝になる頃には体がタバコ臭くなりそうな程だ。少尉がタバコを吸う姿は好きだが、少し控えないと体には確実に悪い。
「大将あったけー」
人を抱き枕のように抱き締めて暖をとる。おかげでこっちは寝返りすらできない。
オレは湯たんぽじゃねぇと言ってやりたいが、幸せそうに頬を擦り寄せてくる少尉を見たら、怒る気も失せた。
「やっぱ俺冬が一番好きだな」
「人一倍寒がりのくせに何言ってんだよ」
少尉は絶対に夏向きだろ。泳ぐのとか好きそうだし(これはオレの単なる偏見かもしれないが)。
「だって大将が文句言わねぇでいちゃいちゃさせてくれる」
正確には言おうとして止めただけだ。
確かに夏にはこうやってくっ付いてベッドに入ったことはない。少尉はくっ付きたがるが、オレが断固として拒否した。ただでさえ暑いのに、引っ付かれたら寝苦しいことこの上ない。
「オレは冬嫌いだけどな。機械鎧の接合部とか痛くなりやすいし」
「それなら俺が暖めてやるよ。それなら痛くならないだろ?」
いい案ができたと言わんばかりに笑みを浮かべる少尉。
寒がりな少尉と冬嫌いなオレ。
だけど二人揃えば暖めあえる。
これなら冬も悪くないかもしれない。
Fin
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