「Trick or treat」

「はぁあ?」

今の「はぁあ?」には、「何を言ってんだ」とか「早く仕事しろよ」とかいった意味が含まれているんだろう。
眉間に皺を寄せ、報告書を机の上に放り投げてくる。

「アホなこと言ってないで早く確認してくれよ」

「アホなことって…今日はハロウィンだぞ?」

「ハロウィンは子供が仮装して大人にお菓子を貰い歩く行事であって、いい大人が子供にたかる行事じゃない」

はっとそこで鼻で笑い、ソファにドカリと座る。
全くもって可愛げがない。恋人に対してこの態度はないだろ。ため息が出る。

「どうせ菓子なんて持ってないのわかってて、ろくでもないことするつもりだったんだろ?」

「私はお菓子の代わりに甘いキスでも貰おうと思っただけだぞ」

「ほらくだらねーじゃねえか」

少しでも恋人らしい時間を過ごそうとしている努力は、いつも簡単に砕かれる。
ずっとこんな扱いをされていたら、涙が出そうだ。冗談ではなく。
渡さた報告書を捲り、読み慣れた字を目で追う。

「Trick or treat」

まさか聞くとは思ってなかった言葉に、顔を上げ瞬きする。
いつの間にか目の前に来ていたことにも驚いた。

「お菓子は用意してないんだ。夕飯を奢るからイタズラは勘弁してくれないか?」

「嫌だ」

グイッと襟元を掴まれ、一瞬殴られるのかと思ったが、目の前は金色でいっぱいになった。
唇に感じる暖かく柔らかい感触。

「早く仕事終わらせないとぶん殴るからなっ!」

顔を真っ赤にさせてバタバタと賑やかに走り去って行く姿を見送ってから、やっとキスされたのだと実感した。
口元が緩んで仕方ない。
最高に可愛いイタズラをしていったあの子を待たせない為に、私は再びペンを持ち直した。



fin




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