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「用って何?」
明らかに不機嫌だという声で言ってやる。
ドカッと座ったソファが体重の分だけ沈んだ。
目の前にいる黒髪の上司は悪びれもなさそうに胡散臭い笑みを浮かべている。
「そう急ぐな。軍とは関係ない私用だしな」
「何だよそれ…なら今度報告書出しに来た時でも良かったじゃねぇか」
こっちはわざわざアルと別行動してここまで来てやったんだ。大した用でも無いのに無駄足させられたんじゃたまったもんじゃない。
「アルフォンスはどこにいるんだい?」
「先にリゼンブールに行ってる」
何だかここ最近になってからアルがリゼンブールに行こうと言い出した。別に機械鎧が壊れた訳でもないし、用がある訳でもない。だけど、どうしても帰りたいと言うから仕方なくリゼンブールへと向かっていた最中に大佐に呼び出された。
「それより早く用件言えよ。アルも待ってるし」
アルに別れ際絶対今日中に来いと念入りに言われた。何をそんなに今日にこだわってるんだか…
「やれやれ…」
大佐がため息を吐きながら仕方がないなといった感じで専用のソファから腰を上げたが、ため息吐きたいのはオレの方だっての。
大佐の動向を目だけで追いかけると、ピタリとオレの後ろで動きを止めた。
「何?」
振り返ろと体を捻ろうとする前に、大佐の手が視界に入りチャラっと金属の擦れる音が首もとで響いた。
音の原因を見ようと視線を落とし、手でそれを掴めば、銀色に光る物が見えた。シルバーリングとかいうやつだ。
「誕生日おめでとう」
一瞬何だか分からなかった。それは急な贈り物と自分の誕生日を忘れてたせいであって、大佐の笑顔にドキッとしたからとかじゃないと主張しておく。
「君の事だ。忘れていたんだろ?」
「う、うん」
誕生日…すっかり忘れてた。だからアルもしつこくリゼンブールに帰ろうとか言い出したのか。
「それなら服の中にしまっておけば見えないだろ?」
確かにこれなら服を脱がない限りしまっておけば見えない。
「最初は普通に指輪にしようかと思ったんだが、君は絶対してくれそうにないからね」
さすが大佐。オレの性格を良く分かってらっしゃる。
普通に貰ったら絶対付けないだろう。
そんなもん付けてるの見られたらからかわれるに決まってる。
「気に入ってもらえたかな?」
ここが外だったら、きっと黄色い声が上がってるだろう。
この笑顔に何人の人がやられてきたんだか…オレもその一人だけど…
「しょ、しょうがないから貰っておいてやるよ!」
こんな天の邪鬼の受け答えだって、大佐にはしっかりと本心見破られてるんだろうな…ほら、すっげぇ嬉しそうな顔してやがるし。
「目標が達成した暁には本当の指輪を受け取ってもらえると嬉しいのだがね」
「考えといてやるよ」
胸元で揺れるそれが指へと移るのは、そう遠くない未来のお話……
Fin
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