東方司令部中庭。天気、快晴。
報告書が出来上がるまで一眠りでもしようかと、草の上に大の字に寝転がった。
視界は一面の青。寝転んで見ているせいか、いつもより空が高く感じる。
ぽかぽかと体を暖める太陽の光が実に気持ちいい。

「たーいーしょ!」

さっきまで視界に広がっていた青が色を変える。軍服の濃い青と、空のような瞳。
「よっこいせ」と掛け声を掛けながら、オレの隣に腰を下ろしタバコを吸い始める。

「サボリ?」

「ちげぇよ。ちゃんとした休憩時間ッス」

ふーっと吐き出された煙が、空に向かって上がっていく。
体に悪いからタバコなんて止めた方がいいのに、その匂いにどこか安心感を抱いている自分がいて、強く止めろと言えない。

「大将は報告書待ちか?」

「そう。でも書類溜まってたみたいだからかなり時間掛かりそうでさ、一眠りしようかなって」

「大佐最近サボりまくってたからなー。タイミング悪かったな」

苦笑しながら言われた言葉に、やっぱりかとため息を吐く。
こんなことなら来る前に電話しておけば良かった(本当はするように言われているが、めんどうでいつもしていない)。
いや、大佐が日々真面目に仕事をしていればこんなことにはならない。やっぱり悪いのは大佐だ。

「大将この後の予定は?」

「報告書がいつになるかもわかんねぇから決めてねえけど…」

「それなら夜は俺とデートしましょ」

デートと言っても一緒にご飯を食べるくらい。偶に泊まる時もあるが、だいたいは普通に宿に戻る。アルが寂しくないようにと考えてくれているようだ。本当に少尉は優しい。でもオレだって一緒にいたい時だってある。

「少尉の家に行っていいならいいぜ?」

その言葉の意味は勿論、泊まってもいいかだ。
泊まる時はオレからの誘いの方が多い気がする。なんだかオレばっかりが求めてるみたいだが、家の中ではウザイくらいに張り付いてくるから想われているんだとはわかる。

「アルは?」

「宿で猫と遊んでる。それにこっち来る度に『泊まりに行かないの?』って聞かれるんだぜ?いちいち許可なんていらねぇよ」

アルにはオレ達の関係は話してある。どうせバレるなら最初から言ってしまおうと二人で話した。
てっきり反対されるかと思ったが、逆に応援してるとか言われ、こっちに来る度にからかわれる。絶対楽しんでやがる。

「そっか。なら先に家行ってるか?」

「んー…そうする」

ポケットから出された銀色に光る鍵を受け取り、自分のズボンのポケットに突っ込む。

「おっと、そろそろ戻んねえと」

タバコを靴の裏に押し付けて消す。
ここに来てから十分も経っていない。軽い息抜き程度の休憩だったのか。

「それじゃあまた後でな」

一瞬太陽の光が遮られ、視界が暗くなった。何が起こったのかわからない程の時間。
上には立ち上がり、いつもより大きく見える少尉のニヤニヤした顔。

「隙ありすぎだぜ?」

それだけ言い残して歩いていった少尉の言葉を、数秒経ってようやく理解し、顔がかぁっと熱くなる。本当に顔から火が出てるんじゃないかと思えるほど熱い。
外でしかも司令部の敷地内でするなんて信じらんねぇ。

「待ちやがれ!」

オレが追い掛けているのに気付くと、少尉はふっと口元に笑みを浮かべ、逃げるように走り出した。




Fin




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