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月が一段と明るく街を照らす夜だから

そんな日くらいは

素直になってやろうと思う







「なぁ、結婚してやるから自分にとって一番価値のある物を渡せって言われたら、大佐なら何を出す?」

窓の外を見ていたオレが、何の前触れも無しにそんな事を聞けば、大佐はそんなオレを訝しんでいる様子だ。
オレは今、上司であるロイ・マスタング大佐の家に泊まりに来ている。名目は大佐の家にある資料を読むため。まぁこんな半分本当で半分嘘な名目なんてアルにはバレバレなんだろうが、敢えて突っ込んでこないアルの優しさが身に沁みる。

「何でまたそんな事を?」

突拍子もない質問にそう聞き返してくるのも無理は無いと思う。オレは窓の縁に寄りかかりながら、昼間の東方司令部へと意識を逆流させる。

「昼間ファルマン准尉が東の島国にあるお伽話思い出してさ。求婚してくる男を追い払う為に入手困難な物を要求してくる月のお姫様の話…」

「月を見ていたらそれを思い出したと言う訳か」

大佐は持っていた本をぱたんと閉じると、ソファから腰を上げオレの横に立った。

「それで?」

月を見ていた大佐にさっきの答えを尋ねる。反対側を向いているオレが、大佐の顔を見る為に首を軽く反らせ下から覗き込めば、大佐の口がふっと弛んだ。

「私にとっての価値のあるものは手では渡せないものだよ」

大佐の事なら貴重な文献とか研究手帳とか言うと思ったがどうやら違うらしい。首を傾げるオレに上からくすりと笑った声が聞こえた。

「それはね、鋼の。君と一緒にいる時間だよ」

こいつは根っからのたらしだと思って間違いない。じゃなきゃ普通言えないだろ?こんなきざなセリフ。まぁそれが様になってるからまたムカつく。

「この答えじゃ満足していただけませんでしたか、お姫様?」

オレの頬を撫でる大佐にはっと鼻で笑ってやる。

「オレを満足させたかったら賢者の石でも持ってくるんだな」

「それはまた難しい注文だな…」

そのまま近づいてくる大佐の顔にオレは自然と瞼を閉じた。
その後にくるのは唇に暖かい感触。最初は触れるだけだが、だんだんと深くなってくるそれ。以前はこれだけで足が立たなくってしまったが、今では自ら舌を絡められるくらいになった。慣れとは恐ろしいものだと思う。

そしてそのままオレは大佐に抱き上げられて、寝室のベッドに横にされた。
部屋の中は電気も点けていないので、月明かりだけがぼんやりと部屋を照らしていた。
手際良くオレの服を脱がせていく大佐の髪の毛が、さらりと揺れるのが視界に止まる。

「大佐の髪の毛って夜の空みたいだな…」

独り言のようにぼそりと呟けば、大佐は顔を上げてオレの髪に手を掛けた。

「それなら君の髪の毛は闇夜を照らす月明かりだな」

時には旅人の道標になり、時には人の心を酷く惑わせる力を持つ月。
大佐は髪の毛に唇を落とすと、それを筆頭にして既に何も身につけていないオレの体にキスを降らせる。

「んっ……」

大佐が胸の飾りに舌をちろりと這わせれば、体が勝手にピクリと反応する。

「だいぶ我慢してたみたいだね」

少し触られただけで反応を示している下半身に、顔がかぁっと熱くなるのが分かった。

「一人でしなかったのかい?」

「…一人でしたって気持ちよくない」

オレはぷいっと視線を反らせた。
それに一人でやると大佐に会いたくなるからなんて、直ぐに調子にのるから絶対に言ってやらない。

「嬉しい事を言ってくれるな」

否、もうこの男はさっきの一言でも充分調子にのってるようだ。
口元が弛んだままの大佐に自身を掻かれれば、先端からはとろとろと液が漏れ出す。

「あ、あ、んっ…」

その液を指で掬って、わざと見えるように舐めとるから性格が悪い。
ムカつく奴だと思っても、体は勝手に次の快楽を待ち望んで疼いて仕方がない。

「ロイ、早く…!」

「全くせっかちだね」

普通入れるべきでは無い所に入ってくる指の感覚に、背中がぞくぞくとする。もう何回となくこの行為をやってきたが、最初のこれだけは慣れる事が無い。
三本の指がオレの中を蠢き、解かしていく。暫くそれが続いて、やっと抜かれたと思ったら、指なんかよりずっと大きくて太いものが突っ込まれた。

「んっ!?急に、いれ、んなよ…」

「すまない。もう我慢が利かなくてね。でも痛くは無かったろ?」

確かに痛みは感じ無かった。だが此方にも心の準備というものがある。
悪びれも無くそう言う大佐の顔をむっと睨んでやった。まぁさっきまでの愛撫のせいで紅潮している顔では迫力もないだろうが…
そんなオレを気にする事無く、大佐は腰を動かし始める。

「あっ、ん…ふぁ…っ」

絶え間なく口から甘ったるい声が漏れて、それに反応するように埋め込まれたものが肥大化していくのを感じる。

「んぁ…はっ、げし…すぎ…ぃ…あっ…」

一番感じる所だけをガンガンと打ち込んでくる。あまりの激しさに、目の前が真っ白になるんじゃないかと思う。

「ひぁ…もっ…む、り…ぁん…」

「私も…限、界だよ…」

その言葉に嘘は無く、オレは腹に白濁色の液を撒き散らし、大佐はオレの中へと注ぎ込んだ。
まだぼーっとする思考回路のオレの汗で貼り付いた髪の毛を、大佐は指で分けて額にキスを落とす。これは情事後に必ずやる大佐の癖のようなものだと思う。そしてこの後は優しい顔で笑みを浮かべる。

その時の大佐の顔が好きだ。

なんて口が裂けても言わないけどな。
だけど今日はこんなに月が綺麗だから
もう一回なら付き合ってやってもいいぜ?


月の光の少年は
一つの宝を手に入れた

目に見える高価な物ではないけれど
何より価値のあるもので
心を満たしてくれるもの

愛と言う名の宝物…





Fin

やいろ様のみフリーです。


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