「何これ?」
渡されたのは少し大きめな紙袋。中身は少し重みがある。
「今日が何の日か考えればわかるだろ?」
「今日?オレの査定期限日だろ?まさか書類?」
大佐はそんな訳ないだろと苦笑を漏らす。
そりゃあそうだ。書類なら直に渡すか、何かに入れるとしても封筒だ。こんなチェック柄の袋に入れる訳がない(極秘に渡すならカモフラージュにいいかもしれないが)。
「今日はクリスマスだろ?」
「オレあいにく無宗教だから」
「私だってそうだよ。だがイベント事くらい楽しんだっていいだろ?」
確かに楽しんだって誰も文句は言わない。だけど、楽しむとか楽しまないとかの前に、クリスマス自体に興味がない。
だから勿論プレゼントなんて用意してる訳もない。
「君からプレゼントを貰おうなんて思ってないよ。ただそれを受け取ってくれれば十分さ」
「ふーん…開けてもいいか?」
「あぁ。気に入ってもらえれば嬉しいが…」
セロテープで止められていた袋を少し乱雑に開く。袋を綺麗に取っておく人もいるが、そんな気はない。というかこんなの取っておいて何に使うのかわからない。
中を覗けば目に入ったのは、少しぶ厚めの本。なんだろうと思い袋から取り出し表紙を見て驚いた。
「これ発売して直ぐに絶版になったやつじゃん!ずっと探してたんだよ」
「古本屋で偶々見つけてね」
絶対嘘だ。ずっと探し歩いても見つからなかった本だ。もちろん古本屋にも通ったし、もし入った場合には連絡して欲しいとも言ってある。きっと偶々なんかじゃなくて、色々な手段を使って探したに違いない。
「これは貰えねえよ」
「何故だい?」
「だってこれ稀少本でめちゃくちゃ高いだろ?」
「そんなこと気にしなくていい。それに君が貰ってくれないと無駄になってしまう。その本は私の分野ではないしね」
だから貰ってくれと苦笑する大佐。そんな表情をされたら断るなんてできなる訳ないじゃないか。
「ありがとう」
とりあえず本を袋の中に入れようとしたら、まだ中に何か入ってるのに気付き、手を中に入れて引っ張り出す。
出てきたのは赤いマフラー。質がいいのか、凄く手触りがいい。
「鋼のに似合いそうで思わず買ってしまったんだ。趣味に合わなかったら使わなくてもいいから」
マフラーを首に巻けば、心地のいい布が頬を撫でる。マフラーから少しだけ大佐の香水の匂いがした。
「こんなんじゃお礼にならねぇけど、オレのマフラーやるよ。使い古しで悪いけど」
カバンの中からオレが今まで使っていたマフラーを出す。何回か使った物だが、まだまだ綺麗だし、ちゃんとしたお礼はまた今度買えばいい。
「いいのかい?」
「オレにはこれがあるしな」
大佐に貰ったマフラー掴む。マフラーは一枚あればいい。
「巻いてやるから少ししゃがめよ」
マフラーを持って構えながら大佐がしゃがむのを待つ。
腰をかがめた大佐の首にマフラーを掛ける。
「ありがとう」
綺麗な顔でふんわりと笑うこの表情は、オレの視線を釘付けにするのに十分なパワーだ。
体勢を戻そうとするところで、グイッとマフラーを引っ張り軽くキスする。オレからするなんてこれが初めて。
「書庫行ってくる!」
マフラーで鼻まで隠し、飛び出すように執務室を出た。
たまにはイベントを楽しむのも悪くないかもしれない。
Fin
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