注意
ロイが酷い人です(ロイ好きな方にはおすすめできません)
ハボエド→ロイです。
半パロディ。
女体化注意!
大丈夫な方はそのままお進みください。
十八になったオレは、アルの体と自分の手足を取り戻した。旅も終わりだ。
生身になった右手に銀時計を握り締め、軽い足取りで大佐の執務室へと向かう。
戻ったと言ったら何て言ってくれるだろうか。「おめでとう」と言って、笑ってくれるだろうか。想像するだけで顔が緩む。
これからは大佐と一緒にいられる。隣を歩けるのだと、そう思っていた。大佐の言葉を聞くまでは…
『優しい手』
「これ返すよ。もう必要なくなった」
銀時計を机の上に置き、生身に戻った右手を見せる。
「戻ったのか…鋼のを抱くのも終わりだな」
てっきり喜んでもらえると思っていたのに、返ってきた言葉は予想外のものだった。「おめでとう」も「良かったな」の言葉もない。
「それって…別れるって事か?」
心臓がうるさいくらいにドクドクと鳴る。どうか間違いであってくれと祈りながら、大佐の言葉を待つ。
「別れる?おかしな事を言うな…私は鋼のと付き合ってたつもりはないぞ」
どこか高い所から突き落とされた気がした。頭の中がぐちゃぐちゃになって、何を言えばいいか分からなくなる。
頭がグラグラして気持ち悪い。呼吸の仕方も分からなくなりそうだ。
今思えば、会う度に優しい笑顔で迎えてくれて、優しく抱いてくれたけど、愛を囁いてくれた事はなかった。
オレが好きだと言っても、いつも軽く流されていたような気がする。
愛されている、付き合っていると思っていたのはオレだけで、ただの独りよがり。
あぁ…なんてオレは馬鹿なんだろうか。
「資格返上の手続きが終わるまで時間が掛かる。一週間後にまた来なさい」
「…わかった」
その一言を言うのが限界。
もうこの部屋にいるのが苦痛で、オレは逃げるように部屋を後にした。
涙で歪んだ視界でひたすら真っ直ぐに走る。目的地なんてものはなく、兎に角遠くへ行きたかった。
やっと鋼の錬金術師としてではなく、ただのエドワードとして見てもらえると思ったのに、簡単に切り捨てられた。
国家資格がなくなったオレはただの女で、大佐にとって利用価値がないのだ。もう側にいる事さえ許されない。
「危ねえ!」
ドンッと体に衝撃がきたと思ったら、バサバサと紙が落ちる音がした。
体が後ろへと傾くが、何時までたってもそれ以上の衝撃はこない。
「大丈夫か?」
普段より近い位置に見えるハボックの顔。
オレの腰にはハボックの腕が回され、転ばないように支えてくれたのだ。
その代わり抱えていたんであろう書類は、無惨に床に散らばっている。
「ごめん…」
そのまま走り去ろうとしたら、手をパシリと掴まれた。
「行く前に手伝ってけって」
大きい体を小さくしながら、せっせっと書類を集め始める。
そういえば少尉を上から見たことなんて初めてだ。
「ほら、ボーッとしてないで拾えよ」
「あぁ、わりぃ…」
少尉と同じように廊下にしゃがみこみ、散らばった書類をかき集める。
その中の何枚かの書類には、ロイ・マスタングという見慣れた筆跡が綴られていた。
軍人とは思えないような綺麗な手で書かれた、同じく綺麗な字。
ただサインを見ただけなのに、胸がズキズキと痛む。
「大将どうした?」
動きを止めていたオレを不審に思ったのか、顔を覗き込んでくる少尉に、何でもないと顔を背け、拾った書類を渡す。
「もう行くから…」
そこから走り出そうとしたら、また手を掴まれた。
「何?まだ何か用あんの?」
「んー…用って訳じゃねえけど……何でも一人で抱え込むなよ?」
大佐とは全然違う大きくてゴツい手で頭を優しく撫でられる。
少尉はいつも不真面目そうだけど、よく人を見ている。
暖かくて優しい手に、今まで我慢していた涙が、一気に流れ出した。
ここだと周りの目があるからと仮眠室に連れて行ってくれ、それからオレが泣き止むまで少尉はずっと横に居てくれた。
「ごめん…仕事中なのに…」
漸く落ち着いた呼吸で、袖で涙を拭きながら言えば、大丈夫だと言いながら頭を撫でる。
「少しは落ち着いたか?」
「うん、もう平気。ありがとな」
もう全然平気だと言えば嘘になるが、思いっきり泣いたら何だかすっきりした。
あのまま一人でいたら、きっとこんなに早くすっきりした気持ちにはなれなかっただろう。
「さっき手掴んだ時に思ったんだけどよ、もしかして…」
少尉の言わんとしてることがわかり、右手の手袋を外し袖を捲ってみせる。
「取り戻したんだな!やったな!」
自分の事のように喜びながら、オレの頭をガシガシと撫で回す。
胸の中がじんわりと暖かくなった気がした。
「これからどうするんだ?何かなりたいもんとかあんのか?」
なりたいもの…ただ大佐の側にいられるということで頭がいっぱいで、何も考えていなかった。
資格を返上した今、収入はなくなった訳で、家もない。リゼンブールに行けば、ばっちゃんが手を貸してくれるだろうが、いつまでも世話になる訳にはいかないし、それにアルとウィンリィの邪魔はしたくない(知らない間に付き合うことにしたらしい。今までそんな話は微塵も聞いてなかったから、聞いた時はかなり驚いた)
「暫くは今ある金で宿に泊まりながら仕事探すかな…リゼンブールよりこっちの方が仕事見付かるだろうし」
「……良かったら家に来るか?」
「…へ?」
思ってもいなかった言葉に驚き、自分でもマヌケだと思える声が出てしまった。
「宿代だってばかにならないだろ?その分俺の家なら金は掛からねえしのんびりできるぜ?少し汚いかもしんねえけど」
確かに使えるお金が限られている今、少尉の話はありがたい話だ。
オレが男だったら直ぐにありがとうと言葉に甘えてもいいが、これでも女だ(少尉がオレに変な事してくるとは思わないが)。
「わりぃ、急にこんなこと言われても困るよな?」
苦笑しながら頬を掻く。
確かに急でびっくりしたが、嫌な感じはしなかった。嫌どころか、嬉しかった。
「俺はいつでも大丈夫だからいつでも頼ってくれていいからな?」
「うん、ありがとう…でも何でそんなに良くしてくれるんだ?」
思ったままの疑問を少尉に尋ねる。
オレを家に泊めたって、何の見返りもないどころか、迷惑しか掛けれない。
オレが居たら恋人だって連れて来られない。
「好きな子が困ってたら助けたくなるのは当然だろ?」
少尉が何を言ったのか理解できなかった。
好きな子?誰が誰を?少尉が好き?オレを?少尉がオレを好き!?
数秒遅れてやっと理解し、途端に顔が熱くなる。
どう返したらいいのかわからず混乱してるオレを見て、少尉は何も言わずただにっこり笑って行ってしまった。
宿に帰り、荷物を適当に放り投げ、倒れ込むようにベッドに寝転ぶ。
年期のはいったベッドは、ギシギシと音を立てる。
今日一日で色々な事が有りすぎてどっと疲れた。
たいして気持ち良くないベッドだが、直ぐに睡魔が襲ってくる。
次に大佐に会うのは一週間後。
それまでに心の整理がつくだろうか。
正直自信はない。そんな直ぐにさようならできる程、軽い気持ちだった訳じゃなかった。
「大佐…」
届くことはない声が、静けさの中に溶け込む。
目から何かが伝わったのを感じた。さっきあれほど出したというのに、どこからこんなに出てくるんだろう。体中の水分が出てしまうんじゃないかと思えてくる。
本当に好きだったんだ…
ずっと隣にいたかった…
一緒に笑っていたかった…―――
続く
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