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「今年も大量ッスねー」

大佐のデスクには、これでもかと言わんばかりにチョコレートが積み重なっている。置ききれない物はソファにまで侵入してくる程の量だ。

「欲しいならやるぞ?こんなに食べきれんしな」

「人の貰ったチョコなんていりませんよ。それに受け取ったもんはちゃんと本人が食べなきゃ失礼ッスよ?」

強がりを言ってみたものの、俺の懐は朝から変わらず寂しいままだ。期待していた女の子達からは「今年は本命だけにしたの」と言われ、毎年用意してくれていたホークアイ中尉は今日に限って非番。
このままだとチョコの一つもなしに、家に帰って一人寂しいバレンタインだ。

「なんで大佐ばっかりモテるんスかね…」

ため息混じりにチョコの山を弄れば、狙っていた女の子の名前を発見し、更に落ち込むはめになった。
中尉が休みの時に大佐が真面目に仕事をする訳もなく、適当に取ったチョコを口に含みながら俺の言った独り言のような問いに答える。

「顔だろ」

「……凄い自信ですね」

よっぽど容姿に自信がなければ、こんな返答は出来ないだろう。しかしその自信を証明するかのように、現物がこうして目の前にあるのだから、誰も違うだろうとは言えない。

「俺午後から市街視察なんスよね。嫌だなー…」

「もしかしたら女の子がチョコを持って走り寄って来てくれるかもしれないぞ?」

そりゃあ女の子が「あの、これ…」とか顔を赤くさせながら俺にチョコを渡してくれるなら、これ以上幸せな事は無い。しかし残念ながらその後に続く言葉はきっと「マスタング大佐に渡してください」だ。
これぞ泣きっ面に蜂と言ったやつだろう。自分の悲しい役回りに涙が出そうだ。

「大佐ー、報告書持ってきたぜ…ってすげぇなこれ…」

自分の不幸を嘆いていれば、突如現れた鋼の大将。報告書を片手に持ったまま、あまりのチョコの多さに呆気に取られている。まぁ当然の反応だろう。

「きっとまだ今から増えるぜ?大佐殿はおモテになりますから」

「こんなののどこがいいんだろうな?」

「上司に向かってこんなのはないだろ…」

大佐に対して嫌みを含めて言ってやれば、それに茶目っ気のある笑顔をしながら返答してくる。
さっきまでは完全に負け体勢だったのに、大将が来ただけで何だか形成が逆転した感じがする。
少し浮上した気分で、大佐と話している大将を眺めながら煙草をくわえる。動く度にきっちりと編まれた髪が赤いコートの上で踊り、光が当たればキラキラと輝く。ただ純粋に綺麗だと思えた。
大将は顔立ちも綺麗だし、頭脳も明晰。きっと大人になったら大佐並みにモテるようになるんだろうな、と未来予想に耽っていれば、大将が何かを思い出したかのように俺の前にひょこひょこと歩いて来た。

「これ少尉にやるよ」

何かと思って手を出せば、手の上に転がったのは小さなチョコ。きっと袋入りのチョコの中の一つだろう。

「オレからのバレンタインチョコレート。って言ってもオレが食べてたやつの余りだけどさ。何もないよかマシだろ?」

状況についていけない俺を余所に、大将が「女の子から貰えなくても元気だせよ」と言いながら、背中をバンバンと叩く。

「私には無いのかね?」

「テメェはこんだけあんだから必要ねぇだろうが」

その後も二人はずっと何か言い合っていたが、最早俺の頭の中には二人の会話は入ってこなかった。

突然の来訪者から渡された小さな小さなチョコ。
それがこんなにも嬉しく感じたのは、今年はないと思っていたチョコが手に入ったからだろうか。
それとも……




Fin




あきゅろす。
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