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君を見ているとイライラするーーー



君は愛おしく…そして憎らしいーーー







この日は鋼のが報告書を出すために東方司令部を訪れていた。
部下達はそれを聞きつけ私の執務室へと集まり出す。
今では鋼のを中心に輪が出来ており、部屋の主である私を差し置いて話に花を咲かせている。

「お前等…仕事はどうした…?」

鋼のから受け取った報告書を読みながら、イライラとした感じの声を出す。

「せっかく大将が帰って来てるんですから、少しくらいいいじゃないッスか!なっ、大将もそう思うよな?」

「おぉ!オレもみんなと話せて楽しいし!」

そしてニコニコと笑いながらまた話を続ける。

イライラする…
君が他の奴と話ているところなど見たくない…
聞きたくない……

「鋼の以外は部屋を出て仕事に戻れ…」

低く出された声にこれ以上逆らうべきでは無いと判断し、皆ずこずこと執務室を後にした。
私と部屋に二人きりになって鋼のはため息を吐く。

「何怒ってんだよ…部下に八つ当たりすんの止めろよな〜」

せっかく話てたのにさーと言いながらボスンとソファーに座った。

「鋼の……」

「何?」

報告書にミスでもあったのかといった顔をしている鋼のを、報告書は机の上に置いたままで真剣な顔で見る。

「……別れてくれないか?」

突然の宣言。予想だにしなかったことであろう。
鋼のは目を一度瞑り、ゆっくり開くと私の顔を見て分かったと返事を返した。

「理由を…聞かないのかい?」

「理由を聞いたからって結果が変わる訳じゃないし…ロイが別れたいって言うならオレはそれに従う」

ソファーから立ち上がりドアに向かう鋼のを目で追う。

「報告書にミスがあったら連絡して…いつもの宿にいるから」

それだけ言い残すと鋼のは部屋を出て行った。
静まり返った部屋。シンとした空気が身に突き刺さるような感覚を覚える。
もっと問い詰められるかと思った…
案外呆気ないものだな…

「これで良かったんだ…私の為にも、君の為にも……」

これ以上一緒にいると君を傷つける。私しか見えないようにしてしまいたくなる。
君が夢を叶える為にはこうする事が一番いいんだ……






「おかえり、兄さん」

宿に戻ると別行動をしていたアルが既に戻っていた。

「何か良い本あったか?」

「何冊か新しい本入ってたよ!借りてきたから見るならテーブルの上に置いてあるよ」

「サンキュ!」

コートを脱ぎ乱雑に椅子に掛けると、テーブルの上に数冊置いてある中の一冊を手に取りベッドに寝転がって読み始める。

「兄さん…何かあった?」

ビクリと肩が揺れた。
いつも通りに振る舞っていたつもりでいたが、アルには隠しきれなかったようである。
本をパタンと閉じると身を起こした。

「何で分かった…?」

「何年兄弟やってると思ってるのさ…兄さんの事なら直ぐに分かるよ」

アルには隠し事出来ねぇな…
苦笑をしながらあったことを一言でまとめる。

「…大佐と別れた」

「えっ!?」

今の一言に信じられないと言った雰囲気が醸し出されている。

「何で急に!?」

動揺が隠しきれていない声で追求をしてくる。

「理由は知らない…だけど大佐が望む事ならオレはそれに従いたい」

オレ達の間に沈黙が走る。
オレは今どんな顔をしているのだろうか。

「…兄さんはそれでいいの?」

アルの問い掛けにコクンと頷く。

「でも兄さんの気持ちはどうなるのさ!?僕は…」

「いいんだ!!」

突然大きな声を出したオレに驚いたアルは、反射的にごめんと謝ってくる。
アルは何も悪くないのに…最低だなオレは…

「…暫く一人にさせてくれないか?」

アルは出掛けて来るねと静かに部屋を後にした。
オレだって本当は別れたくなんて無かった。だけど大佐の邪魔をするような事はしたく無い。
それに…これ以上嫌われたく無い。
あの瞳に拒絶の色が入ったら……それならこのまま上司と部下になった方がまだマシだ。

「……痛いな」

服の胸の部分をギュッと握ると、ポスンとベッドに横になった。







「やぁアルフォンス。鋼のならもう帰ったはずだが?」

鋼のが出て行ってから暫く経った後に来た弟に、兄を探しに来たのだろうと思い帰った事を告げる。
そう言えば直ぐにそうですかと言って出て行くと思ったが、出て行かずに立ち尽くしている。

「…話があるんですけど少しお時間いいですか?」

鎧の為表情は分からないものの、声から真剣さが伝わってくる。
書類を机の上に置き話すように促す。

「何で兄さんと別れたいんですか?」

その言葉を聞いてやはりなと心の中で頷く。
アルが私に真剣に話す事があると言えば、鋼の事だろうと予想はできた。そして案の定出された問いは鋼のの事。
ギィッと椅子を鳴らしながら背もたれに寄りかかった。

「兄さんの事嫌いになったんですか…?」

「いや…今でも彼を思う気持ちは変わっていない」

首を横に振る。
アルはそれなら何故別れる必要があるのかと更に問い詰めてくる。

「私と一緒にいたら彼がダメになってしまう。私と付き合っていたら彼の…君達の夢を叶える為の邪魔にしかならない」

邪魔になるくらいなら手遅れになる前に私は身を退こう。
形は違えど君達の夢を叶える為に最善の努力をする事は変わらない。
それを聞いてアルはそうですか…と返事を返してきた。

「最後に言わせてもらいます…あなたは間違っている。」

アルはそれだけ言うと失礼しましたと言って、驚いて動きを止めている私を置いて部屋を出て行った。
私が間違っている?何がだ?私は彼らが前に進むのに最善の選択をしたはずだ。
頭を悩ませていると、ホークアイ中尉が書類を抱えて入って来る。

「追加の書類です…どうかなされましたか?」

中尉は寄せ腕を組んで眉間に皺を寄せているであろう私に声を掛けた。

「…私は何を間違っているんだ?」

突然の質問に意味の分からない中尉は暫し沈黙する。
しかしさっき廊下でアルとすれ違った事と、私が仕事以外で頭を悩ますといったらあの兄弟の事しか無いと理解したのであろう。

「私には大佐が間違っているのかは分かりません。しかし大佐が最善と思った事でも他の人にはそうでは無い事もあるのは確かだと思います。相手の本当の気持ちを知る事が一番大切な事だと私は思います。」

特にエドワード君は自分より周りの人を大切にする優しい子ですから…そう付け足すと中尉はお辞儀をして仕事に戻って行った。

「本当の気持ち……」

彼の気持ち…そんなのは聞かなくても分かっている。
彼の中で一番は弟であるのは揺るぎない事だ。
私など目的地に着く途中の羽を休める場所にすぎない。
ただの中間地点…
だからこそ彼は私が別れを告げた時、素直にそれを受け入れた…

「やはり分からんな…」

何が間違っているんだ私は…

ロイは片手で顔を覆った。






ただいまと言う声にパタパタと急いでアルの所へ行く。

「さっきはゴメンな…」

怒られるのを覚悟で謝る。

「いいよ。僕も悪かったし…」

アルが怒っていない事にホッと胸を撫で下ろした。

「でもね兄さん、大佐とはちゃんと話た方がいいと思うよ…兄さんも大佐も言葉が少ないんだよ。たまには素直に自分の気持ちを相手にぶつける事が必要だと思うよ」

「でもさ……」

これ以上嫌われたら…拒絶されたらと考えてしまい口ごもる。

「もー兄さんらしくないよ!前向きなのが兄さんの取り柄でしょ!?」

ねっ?と明るい口調で指摘されれば、何故だか今までうじうじとしていたのが馬鹿馬鹿しく思えてきた。

「…そうだな!何時までも一人で考えてたって何も変わらないもんな。」

「それじゃ早速大佐の所に行ってきなよ!まだ司令部にいるだろうし」

アルにぐいぐいと廊下へと押し出される。

「それじゃー行ってらっしゃい!」

「えっ、ちょっ……」

急な展開に頭がついていかない。振り返った時には既にドアがパタンと閉められてしまった。
きっと大佐と話を付けるまで中には入れてもらえないだろう。
はぁーっと盛大にため息を吐いた後、オレはとぼとぼと司令部に向かって歩き出した。






あれから仕事をやる気にもなれずに書類を前にペンをくるくると回していた。この状況が続けば中尉の手が愛銃に掛かる事は間違い無いだろう。
そんな時ドアがコンコンとノックされ中尉が来たのかと思い、入るように促しながら書類に目を向ける。しかしノックした相手はなかなか入って来ようとしない。

「………?」

不振に思い首を傾げながら立ち上がりドアに手を掛けた。

「鋼の……」

ドアを開けてみればそこに立っているのは先程から頭を悩ましている原因の人物だった。
内心では驚いたものの表面上には出さずに冷静を装い、中へ入るように促す。

「それでどうしたんだい?」

「…決着付けに来た」

決着?と意味が分からず疑問符を浮かべている私に構わず鋼のはどんどんと話を進めていく。

「オレは…大佐がオレを嫌いになっても‥オレは大佐の事好きだからな!」

「…………」

突然の告白に何と返事をすればいいか分からなかった。
それに彼が面と向かって一直線に好きだと言ってくれるのは初めてだな…と思うと喜びが増してくる。

「今までありがとな…さよなら」

鋼のは自分の溜めていた思いを吐き出せてすっきりしたような表情を浮かべる。
満足だというように私に背を向けて歩き出そうとした彼の腕を、グイッと後ろに引っ張らりポスンと腕の中へと抱き締めた。

「離せって…」

腕の中から逃げ出そうともがく彼を、更に強く抱き締める。

「私だって君の事が好きだよ…嫌いになんてなる筈が無い」

さっき別れてくれと言われた相手に好きだと言われて、意味が分からないのだろう。
鋼のは抵抗をやめて、目を丸くさせている。

「だけど私は君といてはいけないんだよ…君が前に進む邪魔をしてしまう」

「オレの為に…?」

下からははっと笑い声が聞こえてきた。
何がおかしいのだろうか。鋼のの体を離し自分と向き合わせる。

「オレ達バカだな…お互いに好きだからこそ別れるなんてさ」

好きだからこそ束縛をしてしまうのを恐れ、手遅れになる前に別れを告げたロイ……
好きだからこそ邪魔にならないようにとそれを受け入れたエド……
お互いがお互いを思い過ぎて、自分の気持ちを押し込めて、考えすぎて相手の気持ちを聞く前に勝手に思い込んだ。

ポスンと鋼のが体重を預けてくる。

「オレがこうして前に進めるのも大佐のおかげだ。それに大佐に邪魔されたからって止まるようなオレじゃない」

鋼のは顔を上げるとニッと笑って見せた。
私もそれを見て微笑みを浮かべる。
その笑顔を見ると心が癒されていく…
激しい嫉妬の心が溶かされてゆく…

「私達はお互いに言葉が少なすぎるのかもしれないね」

頬に手を当てれば、鋼のは気持ち良さそうに目を細めた。

「もう一度やり直してくれるかい?」

「うん…」

どちらからと言わず唇が重なり合う。
それはこれから新たなスタートを告げる甘い合図…

どんなにすれ違っても、相手を思う気持ちを失わなければまたやり直せる

さよならは新たな始まりのスタートライン

そこから走り出せるかは自分達次第………


FIN

ゆきな様のみフリーです。


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