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「大佐、口開けて!」

久々に帰って来たと思えば、ただいまも久しぶりの挨拶もなくこの一言。
全くもってこの子の考えにはついていけない。

「何だね、突然…挨拶くらいしたらどうなんだ?」

ため息を吐きながら文句を零す。久々に恋人に会ってこれではあんまりだ。

「いいから早く口開けろってば!」

聞く耳持たずだ。この子は本当に私の事が好きなのだろうか。あまりのぞんざいな扱いに、不安になってくる。
そんな人の気も知らないで、早くしろといいながら机の上に登ってくる。
おかげで書類はグシャグシャだ。

「わかったよ…」

渋々言われるがままに口を開ければ、放り込まれたのは甘い飴。コーヒー味で些か苦味もあるが、子供向けで遥かに甘味の方が多い。おそらくは中尉あたりにでももらったものだろう。

「Trick or treat!」

最初は何を言っているのか理解が出来なかった。動きが停止してから数秒、やっと今日がハロウィンだったことを思い出す。
ここは子供なんてまず関係ない軍内。そんな子供向けのイベントなど、覚えてないのが当たり前と言ったっていいくらいなのだ。

「菓子なんてないぞ。イタズラも勘弁だがな…」

鋼のが散らかしてくれた書類をまとめながらそう言えば、目の前の子供は頬を膨らませ、この上なく不機嫌だ。
そもそも私がお菓子など持っていると期待するのが間違いだろ?それに私から貰わなくても、中尉やハボックから十分もらっているだろうに。(中尉はハロウィンに限らず、鋼のが来た時の為にいつもお菓子を用意しているし、ハボックはイベント好きだ。きっと何かしら用意していただろう。)

「Trick or treat…!」

無いと言っているのに、まだ言ってくる。いつからこんなに物わかりが悪くなったんだろうか。
軽い苛立ちを含めて鋼の顔を見る。

「さっきも言ったが菓子など持っていない。わかったら机から下りなさい」

そう言った後、本日二度目のため息を吐くと、鋼のの指が口へと当てられた。
何がしたいのかわからず首を傾げれば、今度はその指を自分の口に持っていき、この部屋に来てから三回目の台詞を言う。

「Trick or treat…」

あぁ、なる程。漸く理解ができた。
フッと笑みを漏らした後、鋼の口にキスをし、自分の口の中にあった飴が、コロリと鋼のの口の中に飴が転がったのを確認し口を離す。

「これでイタズラは免除だな」

にっこりと笑い、もう一度軽くキスをする。

「お帰り、鋼の」

「ただいま」

少し顔を赤らめた子供は、満足そうに微笑んだ。

どうやら私は愛されてると自惚れてもいいようである。
偶にはこういったイベントに興じるのも悪くはない。




Fin


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