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オレの名前はエドワード・エルリック。地元じゃ有名な進学高校で化学の教師として働いている。だが持ち前の頭脳でスキップしまくった為、歳はオレより上の生徒に教える事が多い。そのせいか普通の教師より生徒に近い立場…と言うより友達扱いされてるような気がしないでもないが…
「授業始めるぞ〜」
ぱんぱんと手を叩いて生徒に席に着くように促せば、談笑を止めて皆自分の席に戻っていく。
流石有名高だけあってどいつも物わかりが早い。授業のレベルだって大学で通じるぐらいだ。素行の悪い奴なんて一人もいないし、学校生活は何の問題もないと思っていた。
しかしオレは今一つの問題を抱えている。
「せ〜んせ!!」
そうこいつだ。休み時間の度にオレにまとわりついてくるロイ・マスタング。
「分からないところあるんで教えください」
いっつもそう言いながらやって来るが、そんなのは絶対嘘だ。こいつの成績はいつもオール5。というか科学においては100点以外の点数を見たことがない。学年首席だって勿論こいつだ。だからと言って質問に来ている生徒を無碍に追い返す事も出来ないので結局教える羽目になるだが…
「…でこれが酸素と結合する事によって…聞いてるか?」
人に質問しておきながら聞いてない様子のロイにエドはイライラを募らせた。
「聞いてますよ。それより何で先生はスカート履かないんですか?」
エドワードと言う男名だが、エドは正真正銘の女だ。スカートを履いたって何もおかしくはないのだが、未だかつてエドがスカートを履いて学校に来たことはない。何時もシャツにズボンの上から白衣を着ているだけのシンプルな出で立ちである。
「それよりって…お前は何しに来てんだよ?質問しに来たんだろうが」
エドはペンでトントンと教科書と叩きながら頬杖をつく。
「まぁ細かい事は気にしないでくださいよ」
悪びれもなくニコニコとしてくるロイに、エドははぁとため息を漏らした。
「オレはスカート履くの好きじゃねぇの。以上!質問が終わったならとっとと帰れ」
教科書をパタンと閉じ、しっしと追い払うように手で払った。
「冷たいなぁ〜先生は。いいじゃないですか。もう放課後で授業がある訳じゃないんですから、私と話に付き合ってくれても」
教科書を鞄にしまいながらも、ロイは重い腰を上げようとはしなかった。
最初の頃は好意を持ってくれてるんだな〜とか思ってたから嬉しかったが、毎日こうだと正直うざったい。ただ質問に来るならまだマシだが、必ずいつも同じ事を言ってくる。
「先生、私と付き合いませんか?」
ほらきた。オレがフリーだと知った時から忘れる事なく口説いてくる。
「オレはお前の学校の教師だ」
「その前に男と女ですよ」
「オレがお前と付き合う理由もない」
「私と付き合ったら損はさせませんよ。必ず幸せにします」
「第一にオレはお前が好きじゃない」
「付き合ってくれれば私を好きになります。その自信がある」
ああ言えばこう言うとは正にこの事だ。オレは眉間の皺を更に深くさせた。
「お前今年受験だろ?こんな事してる暇があるなら勉強でもしろよ」
今は殆どの受験生が将来に向けてばたばたとしだす時期。その上ここの学校の生徒はレベルの高い所を狙っている者が多い。この時間なら家で勉強するなり、塾へ行って勉強するなりが本来の姿であろう。
「今更勉強する事なんてありませんよ。それに先生が言うなら医者だろうが弁護士だろうが大統領だろうがなりますよ」
自信満々にそう言ってのける顔がまた腹が立つ。しかしこいつなら本当にやりかねないので恐ろしい。
「先生は何夫人になりたいですか?」
目の前の男はにこにこと勝手に話を進めていく。こいつの中ではオレと結婚する事が決定済みらしい。
「オレ結婚する気はないから。さっさと帰れ。仕事の邪魔だ」
「じゃあ一つだけお願い聞いてくれたら帰ります」
冷たく言い放ってやっても、ちっともへこたれない。それどころか、逆にお願いまでしてくるのだから大した根性だ。
「何?」
半場諦めムードでお願いとやらを聞いてみる。
「私の事名前で呼んでください」
「はぁ?」
何を言い出すのかと思えば、名前で呼べだとか言い出す。全くもってこいつの考えてる事は訳が分からない。
「だって先生最近名前で呼んでくれないじゃないですか?お前とかばっかりで」
言われてみればそんな気がしないでもないが…でも話す時に周りには他に人がいないのだから、それでもさして問題はない。
「前はよく言ってくれてたのに…」
そう言いながら見せる寂しげな顔は、演技なのか本当なのか判別不可能だ。
「…分かったよ。呼んでやるからとっとと帰れよ?もう時間も遅いんだし」
年下のオレが年上の男の心配をするというのも何だか変な話だが、立場上こちらが上なのだから致し方ない。
「はい!あっでもマスタングとかは止めてくださいよ」
言おうとしていた事に先に釘を刺されて、内心舌打ちをした。
さっさとこいつのお望みとやらを叶えてやろうと顔を真っ正面から見れば、きらきらと期待に満ち溢れた表情がこちらを向いていた。
「…………」
…とてつもなく言いづらい。背中に冷や汗が伝う。たかが名前を呼ぶだけで、何でこんなに緊張しなきゃいけないんだか訳が分からない。
喉の渇きを潤すように、ごくんと唾を飲み込んだ。
「………ロイ」
ぼそりと言った名前には反応が返ってこなかった。聞こえいなかったのだろうか?何だか一人で緊張していて恥ずかしさがこみ上げくる。
「ロイ?」
もう一度今度は顔を覗き込みながら言ってやれば、目の前の男は頬を一気に赤らめた。
「…先生それは反則ですよ」
何がこいつのツボにヒットしたのかは知らんが、帰るように急かした。
「えぇ。今日は大人しく帰ります。」
その言葉にふぅっと安堵し、油断したのがいけなかった。
額にあたる感触と視界に映っているものが何なのか分からなかった。
「それでは先生、また明日」
にっこりと微笑む男が部屋を出て行くのを、オレは呆然と見ていた。
「必ず私のものにしてみせますよ。先生…」
ロイが廊下で不適な笑みを浮かべている裏で、学校中に聞こえるような悲鳴が響き渡ったのは言うまでもない。
Fin
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