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「大佐ー、まだ終わんないの?」

風呂上がりで濡れた髪を、荒っぽくガシガシと拭きながら問う。
久々に訪れた大佐の家。
予告も無しにやって来たオレが悪かったのかもしれない。大佐は家にまで書類を持ち込んでせっせっと処理している。
どうせ今までサボってた分のツケが今日に回ってきたんだろう。

「すまない。後少しだから…」

「それ一時間前にも聞いたんですけど…?」

帰って来てからずっとこんな調子だ。
大佐はオレと仕事どっちが大切なんだよ!そりゃあ仕事も大切だけど、久々に恋人が側にいるのにずっと書面とにらめっこはないだろ?オレだって寂しいんだからな!…とは口が裂けでもって言わないが、その代わりに、はぁ…とため息を吐きながら、隣へと腰を下ろす。
時間潰しに先に風呂に入ったが、それでもまた時間が余ってしまった。
やることもなければ、読む本もない。
部屋の中には、大佐が書類をパラパラと捲る音と、サインをする音が断続的に響くのみ。
外の道路も人は疎か、車一台すら走ってこない。
静かな部屋に風呂上がりで体はぽかぽか。こんな状態で放置されれば眠くなるのは当然な訳で。仕事してる横で寝るのも悪いとは思ったが、睡魔には勝てず、夢の国行きのバスへと乗り込んだ。





目を覚ませば、フカフカの布団の上から見慣れた天井が見えた。そして隣ではロイが本を読んでいる。仕事が終わった後にでも運んでくれたんだろう。

「起きたのかい?」

本をパタリと閉じ此方に顔を向ける。

「今何時だ…?」

近くにあった置き時計を取り、文字盤を確認する。時刻は十二時過ぎ。確かリビングにいた時は八時前だったから…

「げっ!オレ四時間も寝てたのかよ!起こしてくれれば良かったのに…」

時計を元の場所に戻し、枕を抱きながら顔だけを大佐の方に向け、うつ伏せに寝転ぶ。
これでは碌に話してる時間がない。寝てしまった自分も悪いのだが…

「君があまりにも気持ち良さそうに寝ていたものだからね」

起こすのが躊躇われてね、と言いながら苦笑を漏らす。
優しいのはいいのだが、これでは本当に寝に来ただけだ。こんなことなら予め連絡を入れておけば良かったと、今更ながらに後悔する。

「話したいこと沢山あったのになー…」

枕にぼふっと顔を埋める。
どうにかして起きてれば良かったな、と思いながらため息を吐く。

「話しなら今からすればいいじゃないか?」

「今から呑気に話し出したら明日寝不足で仕事行くことになるだろうが…」

オレのせいで大佐を寝不足のまま仕事に行かせる訳にはいかない。
以前一度少しだけと思って話し始めたら、夜中の三時を回っていたことがあった。次の日は勿論仕事で、寝不足で頭が働いていない状態での出勤となったのだ。偶々何も起こらずに終わったが、万が一何かが起きたとき、そんな状態では大問題だ。
しかも大佐は時間が遅いのが分かっているのに、オレが話しを自らやめるまで止めようとしない。だから迂闊に寝る直前に話しがでいないのである。

「明日のことなら心配はいらないよ。無理を言って休みを貰ったからね」

いつの間に…そう言えば、書類を受け取る前に中尉に何か頼んでいたなと思い出す。てっきり書類の締め切りでも延ばしてもらおうとしているのかと思ったら、違ったようだ。

「あっ!もしかしてさっきやってた書類って……明日の分のやつだったのか?」

「あぁ。明日までにどうしても仕上げなければならない書類でね、明日休むなら家でやっておけと言って渡されたんだよ」

サボったせいだと思っていたのに、答えは違っていた。

「オレが帰ってきたからわざわざ休み取ったのか?」

無理にという事は、元は休む予定なんてなかったということだ。オレが司令部に着いてから、急遽決めたのであろう。
連絡入れなかったせいで、中尉にも迷惑掛けちゃったな…今度謝っとかないとな。

「折角鋼のが帰って来てるのだから、少しでも一緒にいたいだろ?さぁ、話しを聞かせておくれ」

オレのせいで家でも仕事をする羽目になったのに、文句一つ言わずにっこりと向けてくれる笑顔がとても暖かく感じた。

「えと、じゃあまず西に行った時なんだけどな………」

旅の間にあったことを全て話していく。オレの話しが終わったら、次は大佐の番だ。
お互いが近くにいなかった時に、何を見て何を感じたのか、くだらない事まで全て話していく。
こうやってオレ達はお互いの時間を共有する。
オレの話しで大佐が笑い、大佐の話しでオレが笑う。
これがオレのHappy Time!






Fin

hisen様のみフリーです。


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