あの日からおよそ2ヶ月して、エルリック兄弟はこの地に戻ってきた。
いつもとより静かに開けられた執務室のドアに、おや?っと少しの違和感を感じる。しかし出てくる言葉や態度は、端から見たらいつもと何ら変わりはないだろう。それでも私には、部下達と話している最中でも、時々漏れるように感じる違和感が、気になってしかたなかった。

「元気がないようだがどうしたんだ?」

そう声を掛ければ、部屋の中がシンと静まり返り、何を言っているんだという視線が部下達から向けられる。

「べ、別にいつもと変わんねえけど」

いつもなら嫌みの一つでも加えてくるだろ。それがない時点で違うと思うのだが、これ以上突っかかるのも面倒で、「そうか」と一言だけ返して話を終わらせた。
報告書を読もうと視線を落としたところで、ハボックが名案を思い付いたとばかりに、手をポンと打ち鳴らす。

「大将が久々に帰ってきたことだし、またみんなで飯食いに行きません?」

「いや、今日は予定がある」

「もしかしてこの前一緒にいた金髪美人とデートッスか?」

ハボックが誰のことを言っているのかは定かではないが、違うとだけ言っておいた。
最近はデートはしていない。いや、する気になれないと言った方が正しいだろうか。
街を歩いていれば声は掛けられるが、それだけだ。その後一緒に食事に行ったり、ホテルに行ったりといった気分には全くなれない。
その一番の理由は鋼のだろう。金髪の女性を見る度に、鋼のの顔がチラつく。これではまるで私の方が片思いをしているようではないか。
こんな状態は、早く解決するに限る。

「鋼の、今夜時間を空けておいてくれないか?」

「え?」

「二人で話したいことがあるんだ」

「…わかった」

空気が読めていないハボックが「二人でデートッスか」とか騒いでいたが、無言の圧力で黙らせた。

定時まで仕事をこなし、資料庫で本の虫になっていた鋼のから本を取り上げれば、不満そうな表情を浮かべながらも立ち上がった。
向かった場所は手料理屋だ。普段デートで使っているようなレストランでも構わなかったが、おそらく鋼のはそういう場所を好まないだろうという判断だ。
ここは私が普段から一人で夕飯を食べる時に使っている、あまり知られたくないお気に入りの場所でもある。誰かを連れて来たのは初めてで、店を経営する老夫婦は、少し驚いた表情を見せた。店の奥にあるあまり他からは見えない席を選び、向かい合わせに座る。

「何がいい?」

「…任せる」

メニューを開くこともなくそう言われ、苦笑してわかったと返した。
シチューと私のおすすめのメニューをいくつか注文する。直に運ばれてきた料理でテーブルの上が賑わい、どれもいい匂いがして、食欲を増進させた。

「いただきます」

黙々と鋼のの胃袋の中に料理が収まっていく。
これだけ黙々と食べているのだから、口に合わないという訳ではないと思うが、美味いともまずいとも一言も発しない。

「美味しいかい?」

「あ、うん…けど…」

「けど?」

「話って何?」

なるほど。今から話そうとしていた内容が気になって、喋る余裕もなく食べていたという訳か。

「食べ終わった後にでもと思っていたが、気になるなら先に話そうか」

「おぅ」

鋼のは持っていたフォークを置き、金色の瞳をこちらに向ける。
ライトの光が反射して、とても綺麗だと素直に思った。

「君が先日してくれた告白だが、受けた時は冗談だと思った」

何かの罰ゲームだと思ったこと、冗談だと思い冗談で返事をしたこと、鋼のを恋愛対象として見たことがないことを、正直に話し謝った。

「そっか…そうだよな。オレもそうじゃないかって思ってたし」

少し俯きながら儚げに笑う。
無意識に彼に伸ばそうとした手にハッとし、慌てて手を引っ込めた。
私は今何をしようとしていた?あのまま流れで手を伸ばしていたら、頬に手を添えキスをしていただろう。
今自分で恋愛対象として見たことがないと言っておきながら、なんて矛盾した行動だろうか。

「大佐、一つだけ頼んでもいいか?それだけ聞いてくれたらこの気持ちもすっぱり消すからさ」

すっぱり消してしまうと言われたことに、寂しさを感じている自分がいる。
本当にどうしたことだろうか。

「何だね?」

「オレを抱いて」

まさかの頼みに、思考も動きも停止した。
真剣にこちらに向けられる瞳から、聞き間違いでも冗談でもないのだとわかる。

「…わかった」

本当はよくないことだとはわかっている。世間的に見れば犯罪だ。
それでも頷いてしまったのは、鋼のに対して性的興奮を感じたからだ。
女性とはその気になれなかったのに、子供のましてや同性を抱いてみたいと思うなんて、自分でもどうかしているとしか思えない。

「行こうか、私の家でいいだろ?」

「大佐がいいなら」

残った料理に手を付ける気分にもならず、申し訳ないが幾分かの料理を残し二人で店を後にした。
家は店からは歩いて十分ほどの所だ。私が歩く半歩後ろ程度の所を、黙ったまま付いて歩いてくる。
家に付いてからはどうにも落ち着かないようで、周りを見回してみたり私の様子を伺ったりしていたりとしていて、緊張しているというのがありありと伝わってきた。
まぁ、これからすることを考えれば当然だろう。

「シャワー、浴びるかい?」

「あ、浴びる」

ビクビクと怯えているような姿が、可愛いと思った。普段は見せない姿で、実に微笑ましい。
鋼のを風呂場を案内し、着替え(と言っても鋼のに合うサイズの物はなく、私のバスローブだが)を置きリビングに戻った。
自分でも不思議なくらいに、気分が高揚している。決して私が少年趣味の嗜好があるとかではない。相手が鋼のだからだ。
けれど、何故こんなにも高揚するのかは、私にもわからない。

「シャワーありがと」

サイズの合わないバスローブを身につけた鋼のの姿は、無防備で色香が漂っている。

「あ、あぁ。私も浴びてくるよ」

先に寝室に行っていてくれと言い場所を伝え、風呂場へと逃げるように向かった。
服を脱げば(否、脱がなくてもわかっていたが)、立ち上がり始めている己自身にため息が出る。
例え女性がバスローブ一枚でいようと、こうは反応しないはずだ。

「ガキじゃあるまいし…」

自分自身に落ち着けと言うように、冷たいシャワーを浴びて風呂場を出た。
バスローブを着て、荒っぽく髪を拭きながら寝室のドアを開けると、ベッドにちょこんとおとなしく鋼のが座っていた。
鋼のが興味を持つような本もあるはずだが、手を付けた様子はない。おそらくずっと座って待っていたんだろう。

「本を読んでいても良かったんだよ?」

「読む気分じゃないし」

今読んでも内容は上滑りして、頭に入ってこないのは明白だ。そんな状態では、いくら本が好きでも気分転換にはならないだろう。
鋼のの隣に腰掛ければ、二人分の重さでベッドのスプリングがギシリと鳴った。それと同時に鋼のの体が強張ったのがわかる。

「やめるなら今の内だよ?」

今ならまだ何もなく終わることができる。
今までのように憎まれ口を言い合う、上司と部下に戻れる。
だが始めてしまえば、途中でやめることはできないだろう。

「やめない」

「後悔しないかい?」

「やめた方が後悔するだろうし」

真っ直ぐにこちらを見てくる瞳に、背筋がゾクリとする。
理性を興奮が上回ることなんていとも簡単だ。
少し乾燥気味の唇にキスをし、顎に指を掛け口を開けて中へと舌を伸ばす。

「んっ、ん…ぁ」

漏れる甘い声に興奮は高まり、そのままベッドへと押し倒す。
腰紐を解けば、あっという間に全てが晒される。
普段黒い服に隠された白い肌、そこから伸びる鈍く光る機械鎧のアンバランスさが何とも言えない。

「ん…ぁ、あ」

乳首を舐め手を下へと移動させると、既にそこは期待に震えていた。
片手で包み込んで軽く扱けば、甘い声が更に艶を増し、体がビクビクと反応する。
そんな様子が可愛くて、イかせることに夢中になった。

「あっ、あぁァッ」

飛び出した精液が私の手を汚し、腹の上を汚す。
手に付いた精液を、そのままアナルへと塗り付け、中へと指を侵入させる。初めて指を入れたそこはとても狭く、熱い。
この中に入れたら、どれだけ気持ちがいいんだろうか。
期待が膨らみ、下半身に熱が集まっていくのがわかる。

「な、んか…んっ‥気持ち、悪‥い…っ」

「大丈夫だ、直に慣れる」

痛くはないようでひとまず安心した。私には受ける側の経験がないから何とも言えないが、おそらく今は快楽より違和感の方が大きいのだろう。
気持ちよくしてやりたいし、気持ちよくなりたい。
そうは思うものの、焦って傷つけることだけは避けたくて、ゆっくりとそこを解かし、体を愛撫する。
自分の物だと主張するように、体中にキスマークを付けた。

「あぁっ!」

「ここがいいのかな?」

執拗にそこばかりを攻めれば、絶頂が近いのか、体をビクビクとさせる。このままイかせてやっても良かったが、あえて最後の一押しはせずに、指を抜いた。
快楽に濡れた瞳が、どうして抜くんだと訴えてくる。

「一人で気持ちよくなるなんてズルいじゃないか」

ズルいだなんて、自分でもおかしなことを言っていると思う。それでも鋼のから文句が返ってこなかったのは、思考が働いてないせいだろう。
バスローブを脱ぎ捨て、期待で膨らんでいるそれを、鋼のに押し付ければ、少し思考が回復したのか、鋼のが逃げるように体を引いた。だがここまできて止める気はない。

「そんなデカいの入らねえって!」

「大丈夫だ。その為にさっきあんなに解かしたんだからな」

問答無用だと足を掴み、中へと侵入させたそこは、思っていた以上に狭い。
強張る体を優しく撫で、萎えかけていたそこを扱けば、中が少し緩まる。その隙を逃さずに、奥まで入り込んだ。

「ひっ‥ぁ…苦し、っ」

「大丈夫だ」

何が大丈夫なんだ。根拠もないことを。それでも他に掛ける言葉を探すほど、余裕がなかった。
優しく、傷付けないようにと思っていたのに、今では自分の欲ばかりを追っている。
獣のように腰を振り、中に欲望を吐き出した。

気を失った鋼のの体を綺麗にしながら、あまりに余裕がなかった自分に呆れ果てた。
意識のない相手に何度も謝り、横に寝転ぶ。
こんなことになって漸く気付いた。
あの日からずっと続いていたもやもやした気持ち。
どうやら、私は鋼ののことを好きになっていたようだ。
いや、もしかしたらずっと好きだったのかもしれない。ただあの日がきっかけで、その気持ちが外に出てきただけで。
朝起きたらこの気持ちを直ぐに伝えよう。君はどんな反応をしてくれるだろうか。
朝を楽しみに、久々に穏やかな眠りについた。
それなのに…

どうして姿を消してしまったんだい?



To be continued...




第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!