「いいかげん離れろよ」

「あと少し」

離れる様子が微塵もない少尉に、ため息を吐く。
家に帰ってきてからご飯を食べていた時以外は、ずっとべったりと張り付いている。動き辛くてかなわない。

「オレもう寝たいんだよ」

腰に巻き付いていた手を剥がし、ベッドに転がる。
布団から染み込んだタバコの匂いがふわっと巻き上がり、鼻をくすぐる。
タバコは嫌いだが、この匂いを嗅ぐと安心する。

「それって遠回しに誘ってるのか?」

「はぁ?」

どこをどう聞いたら誘っていることになるのか、全くもって理解できない。
眉間に皺を寄せていても、そんなことお構いなしにオレの上に乗ってくる。

「疲れてるんだけど」

「寝たいなら寝てていいぞ」

首筋を強く吸われ、ゾクリとする。
それだけじゃなく、少尉の手は服の中へと侵入し、オレの胸を弄る。
こんなに好き勝手体を触られていて、寝れる訳がない。
普段は犬のように甘えてくるくせに、夜になると急に強引になる。
オレだって別にこういう行為が嫌いな訳じゃない。でも、もうちょっとオレの意思も尊重してくれたっていいと思う。
誰だって気分じゃない時くらいあるだろ?それでもいつも最終的には流されているのは、惚れた弱みというやつだ。
乳首を吸われ、舐められ、体中を愛撫される。
肌が粟立つのは、少尉の愛撫によるものなのか、ただ寒さによるためなのかはオレにはわからない。

「んっ…ぁ」

あっという間に着ていた物は全部剥がされ、少尉の口の中へオレの自身が呑まれ、いやらしい音が部屋の中に響く。きっとわざとオレに聞かせる為に、大袈裟に音を出しているに違いない。

「あぁっ!」

久しぶりの刺激に、呆気なく昇り詰め果てた。
ゴクリという音と共に、喉仏が上下に動く。
前から飲むなと言っているのに、止めることはない。

「溜まってたな、一人でシなかったのか?」

「シねえよ!」

宿はアルと同じ部屋に泊まるのがほとんどだ。ヤろうと思えば風呂場なりトイレなりでできるとは思うが、ヤろうとも思わない(旅が長期間の時は仕方なく義務的にする場合もあるが)。

「俺がいないと上手くイけないとか?」

「違っ!」

ニヤニヤとしながら聞いてくる顔を、殴りたい衝動に駆られたが、グッと我慢する。
正直少尉の言ってることは半分当たりだ。
一人でヤると時間は掛かるし、終わった後は気持ちよさよりも虚しさの方が強い。

「ずっとここにいてくれたら、毎晩俺が面倒見るのにな」

「お断りだ」

旅を中断しないのは当たり前だし、旅が終わって一緒にいることになったとしても、毎晩ヤられるなんてたまったもんじゃない。

「そんな即答されると悲しいんだけど…」

そう言いながらも手は俺のアナルへとたどり着き、中へと侵入してくる。
悲しいならそれなりの態度を見せろっての。
強引だけど、優しい手付きで指が俺の中を動き回る。

「あっ、ん…ッ」

抑えきれない声が、口から漏れる。こんな自分の声なんて聞きたくないのに、口元を抑えるのは許してくれない。
前に声を聞くのが嫌で抑えた時は、手をベッドに縛り付けられた。最後までそのままヤられたせいで、手首には縛った後が残り、暫くアルに見られないように隠すのが大変だった。

「入れるぞ」

「んっん…ぁ」

抜かれた指とは比較にならないくらい大きくて熱いものが、中へと侵入してくる。
内臓が上に押し上げられてるんじゃないか、と思えるほどの圧迫感。
突き上げられる度に、何も考えられなくなっていく。

「ぁんっ…んッ」

少尉の首に腕を絡め、顔を引き寄せキスをする。
咥内に感じるタバコの味、鼻をくすぐる汗の匂い、肌に感じる熱い吐息。
どれもが更なる興奮を誘う。

「出すぞっ」

「んっ…ぁあッ!」

達したのはほぼ同時だった。
二人の呼吸音だけが部屋に流れる。
オレの中から少尉が出て行くのをぼんやり感じながら、横に寝転んだ少尉の胸にすり寄る。

「いつもこれくらい素直にくっ付いてくれると嬉しいんだけどなぁ」

「少尉が禁煙できたら考えてやる」

「一生無理じゃねえか」

「一生吸うつもりかよ」

まぁ別に本気で言った訳じゃないが、少しは禁煙する気になってもいいんじゃないかと思い、ため息を一つ吐く。
煙いのは我慢してやるとしても、体に良くないのは確かだ。
しかも禁煙しろと言ってるそばから吸おうとしてるし。

「寝タバコ禁止!」

「えー!」

火を付ける前にタバコを奪い取れば、不満げな顔を向ける。
なんでもセックス後の一服は最高なんだそうだが、そんなこと知ったことじゃない。
不満そうな顔をした少尉の唇に、軽くキスをする。

「今夜はこれで我慢しろよ」

最中以外でオレからキスをしたのは、これが初めてだった。やった後に恥ずかしくなって布団に顔まで潜れば、腰に腕が回ってくる。
布団が剥がされ見えたのは少尉の緩んだ顔。
この後また少尉の好きにされたのは言うまでもない。



Fin




あきゅろす。
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