贈り物
1
「おっ」
「どうしたの?」
休日、天気は晴天。
暇を持て余していた出夢その他大勢は、久しぶりに並盛の街へと出かけていた。
ゲームセンターに大型ショッピングセンター。
数時間かけて街を徘徊し、日も傾いてきたところでそろそろ帰ろうと帰路につく集団の中で、出夢が後ろを眺めながら声を上げた。
「ぎゃはは―ちっと先帰っててくんね?僕もうちょっと遊んでから行くわ」
「え?一人で?」
横で不思議そうに出夢を眺める綱吉に、出夢はにい、と口角を持ち上げた。
「二人っきりで、だよ」
それだけ言うと、出夢は凄まじいスピードで集団とは逆の方向へ駆け出した。
「ん?どうしたんだー」
「どうしたんだろね?」
「ほっといて帰りましょう十代目」
一方、出夢は角を二回ほど曲がり、目当ての『少年』を視界に捕えていた。
「ぎゃははははっ人識!」
「っ!てめっ…」
出夢は少年――零崎人識に飛び掛ると、そのまま一緒にどさりと倒れこんだ。
「ぎゃははははは!」
「……っ」
愉快そうに高らかに笑う出夢の下で、人識は受身を取ることすら出来ず倒れたせいで頭部を強打したようで、何も言えずに頭を抱えて悶絶している。
「ん?どうした?僕に会えたのが嬉しすぎて言葉すら出ないってか?」
「て、てめえこのやろう…」
懐に手を忍ばせ、ナイフの柄を握ったところで出夢はぴょんっと跳ねて人識の上からどいた。
慌てて立ち上がると、後頭部をさすりながらギロリと出夢を睨んだ――が、そのまま回れ右。
それ以上何も言わずに歩き出してしまった。
「?」
いつもなら起こって怒鳴りつけるなりしてくるはずなのだが、何も言ってこない人識に出夢は疑問を浮かべながらその後を追った。
「なあ人識ー」
「…」
「何怒ってんだよー。あんなのただの愛情表現だろー?」
「……」
ちょろちょろと周囲をうろつきながらそう言うも、全く反応しない人識に――激情型の出夢は、堪忍袋の緒が切れた。
「シカトぶっこいてんじゃねぇぞてめえ!」
「!!」
出夢は人識の前に立ちはだかると、鳩尾目掛けて足を振り上げた。
慌てて避けようとしたが間に合わず、なんとか鳩尾は避けたものの脇腹にもろにくらってしまい、人識はその場に倒れこんだ。
「で、何キレてんだよお前」
その後、周りの視線が痛かったのもあり出夢は人識を担いで路地裏まで運ぶと、機嫌を直して人識の顔を覗き込んだ。
人識も蹴られて怒りが吹っ飛んだのか、「あー…」と気まずそうな顔をすると、よろよろと立ち上がった。
「や、別に何でもねーよ」
「それで納得するかっての」
そんな人識の服を掴むと、そのまま引っ張り、再度座らせると背後から抱え込む姿勢を取った。
出夢の長い腕が、がっちりと腹の上へ回った。
つまり、もう逃げられない。
「…だあああ!」
「っ!?」
突然叫んだ人識に、出夢の肩がびくんと跳ねた。
「ど、どうしたんだよ?」
「だから!」
人識は腕の中でぐるりと体を反転させると、出夢と向き合い――そのまま、軽く口付けた。
「……」
「むかつくから、あいつらといる時に俺の前に現れんな。わかったなこのやろう!」
「…ぎゃはは、なんだよ人識、妬いてんのか?」
「ちげえぞ。断じて違う。僕は妬いたりしてません」
動揺して一人称まで変わってしまっている人識に、出夢はにやりと笑うとそのまま強引に押し倒した。
「かっわいいなー人識君は。でも安心しろよ?出夢ちゃんが愛しちゃってんのは人識君だけだからさー。ぎゃははははっ」
「てめ、調子乗りやがって!」
「―でさ」
いつもの調子に戻った人識は、あることに気がついてしまった。
この体勢、この状況。
自分の上にいるのは、あの変態性欲の塊だったと。
「あれで終わりじゃねえよな?ふつー」
不用意に外を歩くのはやめよう。
人識がそう決意した日の事だった。
→あとがき
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