殺戮人形
1
死体が転がっていた。
数は十二。
全員無残なほどにずたずたに斬り刻まれている。
その死体の血と肉と内臓の海の中に、私はいた。
血まみれで、肉まみれで、内臓まみれ。
両手には血よりも赤い紅、双剣《紅(クリムゾン)》が握られている。
ぱちぱち、と背後から聞こえる拍手に、私はくるりと振り向いた。
針金細工のように長い手足。
驚くほど背広の似合わない、オールバックに眼鏡の私の『兄』は、笑顔で私に話しかけた。
「うふふ、さすが愛織ちゃん!もうすっかり一人前だね」
本当に嬉しそうに笑う『兄』に、私も満面の笑みで返す。
「ありがとう双識兄さん」
散らばった肉や内臓を容赦なく踏みつけて、私は双識兄さんへと駆け寄った。
「うふふ。相変わらずかわいいなあ」
そうすると、双識兄さんは笑顔で私の髪を優しく撫でた。
空気に触れて酸化した返り血で、私の銀髪は所々黒くなっている。
ーもちろん、地毛じゃない。
私は純粋なる日本人だ。
私の『兄』の一人であり、命の恩人を真似して染めた髪。
本物に似せるためにわざとまだらに染めてみた。
染めた直後は双識兄さんに泣かれるは、舞織姉さんに説教されるはで大変だった。
でも、今この髪は私の体で一番好きな部分だ。
ついでに言うと、言わずもがな私の命の恩人の名前は零崎人識である。
生い立ちはいろいろ特殊であるけども、とりあえずは零崎一賊の秘蔵っ子という立場らしい。
ーあれから、約半年が経っていた。
私はあのまま人識兄さんに双識兄さんの元へ連れて行かれ(押し付けられ)、殺人鬼集団、零崎一賊への仲間入りを果たした。
この半年でいろんなことを学び、たくさんの人(主に暴力の世界の住人)に出会った。
そして戦闘経験を積み、今では一人前の零崎として、《殺戮人形(キリングドール》なんて二つ名まで付けられている。
双識兄さんや軋識兄さんには、成長が早いだの何だの言われ驚かれたけど、それもこれも、半年間ずっと胸に抱えてきた目的があったからだ。
ー目的、目標。
聞こえはいいが、私の場合は誉められたようなものではない。
私の目的は『復讐』だ。
私がまだ白だった時代。
私を陥め苦しめた人間に復讐を。
そのためだけに、私は腕を磨き続けたのだ。
それは誰にも話してないが、周知の事実であり暗黙の了解である。
「ねえ双識兄さん」
それを実行へと移す時が来た。
その前に、私にはやるべき事があった。
「なんだい?」
ふわりと笑う双識兄さん。
ああもう、本当はわかってるくせに。
「人識兄さん、どこにいる?」
会いに行こう。
私に名前をくれた、零崎愛織をくれた、あの人に。
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