殺戮人形
1
母親は、リビングでいつも通り酒に溺れていた。
会社が潰れた父が私たちを捨てて逃げて行ってから、いつもこうだ。
吐いても吐いても飲み続け、満足したら私に暴力を振るう。
その繰り返しだ。
「…ただいま」
いつも通りに声をかける。
ソファーに座ってこちらに背を向けている母は、こちらを振り向きもしない。
私はその足でキッチンへと向かった。
そして、目当てのものを見つけるとそれを手に取った。
ー何故だろう、体が軽い。
家に着いてからやけに体が楽になった。
もう、限界なのかな。
私はリビングへ向かった。
「…ねえ、お母さん」
「………何よ。帰ってたなら早く夕飯作ってお風呂沸かしなさいよ」
私から声をかけたのは久しぶりだ。
少し驚いたのだろう、母親ー…いや、女の肩が僅かに揺れた。
それでも振り返らない女に、私はばれないように安堵する。
「その前にさ、聞きたいこと、あるんだけど」
「……」
女は答えずに、次の酒へと手を伸ばす。
それでも構わずに、私は一方的に話しかけた。
「いろいろあったね。今まで。幸せだったね。今まで。お父さんがいて、お母さんがいて、私すごく幸せだった」
「…」
女は答えない。
「−だからさ、幸せついでに最後に確認したいことがあるんだ」
私は一歩一歩、近づいていく。
そしてー…
「お母さん、私のこと、好き?」
「…嫌いよ。大嫌い。あんたなんてさっさと死ねばいいのにー…!」
女は、答えた。
私は、嗤う、嗤う、嗤う。
「ありがとう。ーそれが聞きたかった」
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