殺戮人形
1
復讐宣言から数時間。
授業中は紙屑を投げられたり、暴言を吐かれたりいろいろあった。
お昼休みになって、我先にと話し掛けて来たのはー
予想通り、綾河だった。
「何か用?」
話し掛けてきた綾河にそう聞けば、綾河はわざとらしく肩を震わせた。
「おい真代!やめとけって」
お姫様を守る騎士にでもなったつもりなのだろうか。
慌ててあの三人を含む男子が駆け寄ってくる。
「あ、あのね、私憂ちゃんと二人でお話したいなって…」
しおらしく俯いて震える声で話す綾河は、私からすれば笑えるほどに滑稽だ。
そしてまずそれ以前に、私をその名前で呼ばないでほしい。
「やめときなよ!」
「そうだよ綾河!また何されるかわからないだろ?」
一斉に止めに入る男子たちだが、綾河は「ありがとう」と言いながら首を振った。
「でもね、憂ちゃんがこんなことをするのはきっと私にもいけない所があったんだよ…。本当は憂ちゃんはいい人だから、話し合えばわかり合えるって私思うの!」
「真代…」
ー嗚呼、馬鹿らしい。
偽りの言葉に騙される。
あまりに愚かだ。
「ーそれで、茶番劇はそれで終わりでいいのかな?」
「なんだと…!?」
私の言葉にぎゃーぎゃーと反論する奴らを掻き分け、私は綾河の前に立つ。
「屋上でいいんでしょ?」
そう言ってやれば、綾河は醜い顔をさらに歪ませてにっこりと笑う。
「ありがとう憂ちゃん!」
憎悪を秘めた歓喜の声を上げると、綾河は私の手を握り(汚らしい)屋上へと足早にその場を後にした。
「話があるなら早くしなよ。寒いんだから」
季節が季節なだけあって、さすがに屋上は肌寒かった。
そんな素直な苦情を、綾河は鼻で笑って私の手を放し距離を取る。
「ーあははははっ!あんた本当にばかなのね。今更戻って来て何?復讐?できるわけないじゃない!」
ー嗚呼、本当に醜い。
この歪みきった顔を見て、クラスメイトたちはどう思うのだろうか。
きっと絶望するのだろう。
お姫様の仮面の裏を知り、自分たちの愚かさを知り、罪を知る。
その罪は、潰れてしまうほどに重い。
「土下座して」
「…は?」
そんな事を考えていたら、空耳が聞こえてきた。
「したら許してあげるわ。もう前みたいに人気も人望もないあんたなんて、嵌める価値もないんだし?私が優しくてよかったわね?あははははっ!」
「………くくっ…」
つい笑ってしまった私を、綾河は不機嫌そうに睨みつけてくる。
「何笑ってんのよ!この私が許してやるって言ってんのに!」
ーあ、やばい。
もう駄目だ。
「あはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!!」
狂ったように笑いだす私に、綾河はさすがに怯えたようで、青ざめながら後ずさる。
「土下座?私が?どうして?どうして私が、この零崎愛織があなたに頭を下げるの?醜くて矮小で、人に守られなければ生きていけないあなたにどうして?」
逆に私はさも愉快そうに笑いながら、一歩一歩と綾河に近付いて行く。
「ああ!気付かなくてごめんね。そうだよね。あなたみたいに醜くなくてごめんなさい!あなたより目立ってごめんなさい!…ねえ、これで許してくれる?」
とん、と綾河の背中が屋上の扉に当たる。
それに現実に引き戻された綾河は、青白かった顔を侮辱された恥ずかしさと怒りで、みるみるうちに真っ赤にさせた。
「な、何よ!私が醜いってどういうことよ!」
「そのまんまだよ。あなた鏡見たこと無いの?」
「…っ」
茹でたこのように顔を赤くさせた綾河は、スカートのポケットに手を入れると、カッターを取り出した。
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