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Hello, fine days
Hello,fine days<1>
「ただいま」

「おかえりなさいっ」

玄関まで出迎えてくれた茗にフライドチキン店の袋を手渡す。受け取った茗はたちまち笑顔になり、小走りでリビングへ飛んでいった。
彼女が僕の部屋にやって来てから仕事も忙しく落ち着いて話す機会もなかったし、今夜はささやかな歓迎会をしようとお誂え向きな物を調達してきた。

本当は彼女の与り知らないところで愚痴ってしまったという罪悪感を払拭するべくこんなことを企てたのだが、様子を見る限りお気に召したようで嬉々としながらチキンをテーブルに並べている。

もし妹が居たらこんな感じなのかもしれない。たったこれだけのことで喜ぶ姿を眺めて、この際擬似的にでも兄と妹になれたら楽しいかも、とその気になってエプロンに頭を通す。家族向けの容量が多いものを買ってはきたが、大食らいな彼女には物足りないにちがいない。

「今日は何かお祝いですか?」

「僕らの親睦会。僕は仕事が忙しくて、君と話す機会が取れなかったからね。寮の空きが出るまでとは言え、一緒に住むんだから仲良くしたいでしょう」

「親睦会ですか」

僕に配慮してなのかどこか改まった調子がほんの少し弛む。呆けたように彼女の肩は一瞬落ちたがすぐに高く張ってにこりと笑顔を作った。親睦なんて言ってもおそらく仲良くなるのは上っ面だけ。僕と同じように彼女もまた『僕』という他人に気を許してはいない。

それは悲しいことなはずなのに、心根の程はほっとしていた。こんな兄と妹なんていないなとさっきまでの空想をうすら笑った。

どんなに楽しくご馳走を平らげたところで僕らは歩み寄らない。他人だ。

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あきゅろす。
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