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Hello, fine days
Hello,fine days<1>
翌週の日曜日、彼女と彼女のマネージャーはボストンバックを一つずつ抱えてやって来た。

断りきれなかった“お人好し”の僕のマンションへ。

「寮に空きがなくて、貴方に断られたらこの子を住まわせる場所が何処にも無いんです」

と言われては父より人がいい(らしい)僕がノーと言えるわけない。


「――で、こっちが君の部屋。とりあえずは好きに使っていいよ」

「わあ、きれいな部屋!」


僕の寝室の隣部屋を指してそう案内すると、茗は歓声をあげた。

そりゃあきれいだろう。新築だし、なにより奮発したから。

彼女がきれいだのすごいだの言うたびに僕の胸にある何かがズシリと重さを増していた。


「けど、いいんですか? こんな立派なお部屋をあてがってもらって」

「いいですよ。使ってもらう方が部屋にもいいですから」


押し通したのは自分なくせに、川崎マネージャーは申し訳なさそうに様子を伺う。
どうせ住む人間は越してくる前に出ていったしね、と心の中で僕は毒づく。

少女は瞳をきらきらさせて、いよいよ自分は歌手になれるのだと実感しながら、新しい環境への期待に満ちみちている。

そんな彼女がなんたって僕の部屋に居るのだろうか。皮肉だ。


「ええと、茗ちゃん」

「茗、でいいです。そんな可愛らしい呼び方、私に似合わないから」

「じゃあ、茗」

「はい」


すっかり新築の部屋に夢中だった茗は僕の堅い声色に気付いたようで、真剣そうに大きな目を見開いた。


「ひとつだけ、約束してほしいことがあるんだ」

「はい。あ、大丈夫。プライベートにはたちいらないようにっていろんな人に言われたから」


いろんな人ってなんだ、いろんな人って。
まあ、しかしそう言いつけられているのならわざわざ釘を刺す必要はなさそうだ。


「なら、いいんだ。けれど、君こそ本当にいいの? 先輩アーティストの息子とは言え、男の一人暮らししてる部屋だよ?」

「社長は浩太郎君なら大丈夫よー、って言ってたけど違うの?」

「いや、違わなくはないけど」


まさか十七歳の少女に手を出すわけはない。そんなわけはないけれど、精神衛生上というか道徳的にいいとは言えない。


僕の答えに疑うことすら頭になさそうな茗の屈託のない笑顔。心底、頼みをきいてしまったことを後悔した。

これが少年だったなら良かったのに。

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