Hello, fine days
Hello,fine days<0>
上司に肩を二度叩かれる。それには、労いとまた次もよろしく。この二つが凝縮されている。
正直なところ、会社の利益なんてどうでもよかった。自分が相手にどれだけ好印象を残せるか、それに懸けていた。
米山浩太郎は誰も居ない休憩室で一人、溜め息を吐く。
別に、実績なんてどうでもいい。誰にも拒絶されなければ、それだけでいい。
「いたいた、米山ー」
「佐伯?」
「面会が来てるって、受付に」
「僕に?」
「営業二課の米山さん、てお前しかいないからな。なんか怪しいし、断るか?」
「怪しい?」
「芸能事務所だって言っているそうだ」
首を傾げる同僚のその単語に心当たりがあった。ありすぎた。
「会ってくる、ありがとう佐伯」
「課長には昼に出たと伝えておくから気にすんな」
「よろしく頼むよ」
飲み掛けのコーヒーをゴミ箱へ投げ捨てる。礼節を重んじる祖母が見たら、叱られそうだが、今は行儀に構ってなどいられない。
足早に受付へと向かった。
滑り込んだエレベーターの中で携帯電話を開く。同じ番号から着信五件。
「ああ、やっぱり」
会社には来ないように、とあれほど念を押したのに。と項垂れている内に地上階へ到着してしまった。ああ、億劫だ。
ロビーで受付の女性社員に面会者の居場所を尋ねる。あちらです、と優雅な身振りで指し示された方にはパキッとしたベージュのパンツスーツに身を包んだ女性と、申し訳なさそうに佇む男性。
「浩太郎君!」
「黛社長…父さんまで」
予感が見事に的中し、浩太郎は溜め息を吐く。その様子が気に入らなかったのか、女性――黛社長は腰に手を当て憤然と浩太郎と対峙する。
「申し訳ない、浩太郎。俺の力では止められなかったんだ」
「なによそれ、迷惑だって言うの!?親子揃って失礼しちゃう!」
「迷惑じゃないよ。だけど、ここじゃ目立つから外に出ませんか?ちょうど昼休みだから」
プンプンと鼻息の荒い黛社長の肩をエントランスへと押しやりながら、浩太郎は見えない角度から父と苦笑した。
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