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赤い実たべた
「なんだ?これ」


ニーナが見つけたのは小振りな赤い実。
何の実か分からないが、かなり硬い。
というか木の実なのかすら怪しくなってきた。

赤と言うよりは紅、真紅に近い深紅。炎の様な赤。

少し齧ってみたが、文字通り歯が立たなかった。
しかしこれほどに綺麗な色の木の実は珍しく、そのまま捨てるのはもったいない。


(ツェルニに見せてやるか)


バイトのため、機関部にやってきたニーナは早速ツェルニを呼んだ。
すぐにツェルニはやってきて、ニーナに抱きつく。


「今日はお前に見せたい物があるんだ」


なあに?とあどけない顔をかしげるツェルニに頬が緩む。
ハンカチに包んだ木の実を鞄から取り出す。


「綺麗だろう?枝に一つだけ生っていたんだ」


ツェルニは丸い瞳を輝かせてその赤い実を見た。

かつん、と後ろで足音がした。
音のした方にはモップとバケツを持ったレイフォンが立っていた。


「今日は早いんですね、先輩」
「ああ、ツェルニに見せたい物があったからな」


ニーナはレイフォンに見えるように赤い実を移動させた。


「――先輩、それ」


どこで見つけたんですか。とレイフォンは言った。
まるで、信じられないものを見たかのように、彼は言った。


「停留所の近くだが…どうかしたのか?」


いつになく歯切れの悪いレイフォン。
しかし、その目線は赤い実にそそがれている。


「…欲しいのか?」
「え!?いや、そういうつもりじゃ………良いんですか?僕が、もらっても」
「? あぁ、ほしいのなら、ほら」


ころんとレイフォンの手に赤い実を渡してやる。


「ありがとう、ございます」


レイフォンは受け取ると頬を染めてうれしそうに両手で握りしめた。


(ん?)


何だ?今の。
ニーナが見ていると、レイフォンは実を口に近づけた。


「あ、その実すごく硬い…」
「え?」


さも当然と言わんばかりに、レイフォンはその実に剄を流した。
深紅の実が鮮やかな真紅に染まる。
ほわり、と色んだ艶やかな実はレイフォンの手にあった。

レイフォンは実に歯を立てて、一口齧る。
かしり、と実は小気味良い音を立てていとも簡単に半分に分かれた。


「食べられるのか」
「はい。とても、おいしいですよ」


満面の笑みでレイフォンは言った。
つられてニーナも微笑む。

剄を流すと皮が柔らかくなるのか。


「先輩」
「ん?なんっ…」


唇に何かが押し付けられた。開きかけていたため、それが口の中に入ってきた。
とたんに広がる甘い芳香と甘酸っぱい味。

レイフォンの手に残っていた実の半分のようだった。


「甘…」
「でしょう?」


ふふ、と笑うレイフォン。


「剄によって味が変わるんですよ」


噛む度に甘酸っぱい果汁は口内いっぱいに広がる。
何度か噛み解し、飲み下す。


「種はないんだな」
「種は木が枯れる寸前に実らせるんですよ。ちなみにその種は薬にもなります」
「へぇ……うん?ずいぶん詳しいんだな、レイフォン」
「…あ!いえ、その、…偶然ですよ」


レイフォンはニーナから逃げるように目を泳がせた。


………言える訳ない。これが、


グレンダンではこの実は、最愛の人に贈る物だなんて。
言える訳がない。


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あきゅろす。
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