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オーファン・オフホワイト
「セーンパイっ!」

目の前の扉を叩けば、望んだ人が顔を出した。


「お前‥また来たのか‥?」

ただ、酷くげんなりしてるけど。
対照的に目の前のレイフォンはにこやかだ。

「急に先輩の紅茶が飲みたくなって‥」

「だからこの間注れ方教えただろうっ?!二日と経たないうちに来るな!」

レイフォンは昨日の練習が終わった後にニーナから紅茶の注れ方を教わったのだ。

「先輩みたいに注れれ無くて‥」

シュン、と瞼を伏せればニーナは溜息をついて、

「仕方ない、もう一度教えてやる‥」

「入れ」と、そう言った。
レイフォンはニーナに続いて部屋に入る。


全く ちょろい。(今、僕の顔は汚染獣も逃げ出す表情をしてると思う)


今日ニーナの所に来たのは紅茶の注れ方を教わりに来た訳じゃ無い。
ある目的が有るのだ。


密かにレイフォンは握り拳を作る。

チラリとニーナを見る。
背を向けて歩いて行く先輩の背中は小さい訳では無いが、手を伸して抱えてしまえば僕の腕の中にスッポリと収まってしまうだろう。

(やばいやばいやばいっギュッてしたい!)

今すぐにでも、この腕の中に収めたい。

───だけどそんな事したら多分殴られるだろうなぁ‥。

そんなレイフォンの葛藤を露知らず、ニーナは黙々とお湯の用意をする。


「───ン、レイフォン!」

「へぁ!?」


意識が何処かへ飛んでいたレイフォンは、いきなり自分の名前を呼ばれて変な声が出た。

話を聞いて居なかったのか、とニーナに睨まれる。


「呆けてたな、どうした?」

「先輩に見とれてました」なんて言える訳もなく、レイフォンは言葉を濁した。

不信気な視線を投げ掛けられたが、直ぐにその視線は彼女の手元に戻される。

(膚、白いなぁ‥指細いし)

また、ぼんやりとそんな事を考える。
これであの破壊力のある攻撃が出来るから不思議だ。

「これで終りだ、ちゃんと覚えたか?」

注れ終わったのか、ニーナがこちらを振り返る。
藍色の眸がレイフォンの姿を映した。

ハッ、と我に帰るレイフォン。

「寝不足か?」とニーナに聞かれたので、首を振って否定する。


「ちゃんと休養をとらないと体調を崩すぞ、悩みでもあるならわたしに相談しろ」

柔和に笑まれ頭をポンポンと撫でられた。
ニーナに頭を撫でられた瞬間、顔が熱くなった気がした。

「レイフォン?」と小さく名前を呼ばれて、ドキリと心臓が跳ねた。

これはチャンスじゃないのか?と、脳が言う。

確かに、これ程に無いチャンスだと思う。

こんなチャンスを逃すのは惜しい。
ゴクリと生唾を飲み下す。

「───先輩‥少し、良いですか?」


レイフォンの静かな声に、ニーナは真剣な面持ちになる。

「わたしに出来る事なら言ってくれ」


そして、レイフォンの次の言葉を待った。


よし、これで良い。


「‥充電させてもらいたいんですが‥」


“充電”の言葉に、は、と声を発するニーナ。


「じゅう、でん‥?」


意味が分からないと言いたげに目許が歪む。

その様子が面白くて顔が緩んでしまいそうになるのを、どうにか噛み堪えた。


「充電とは‥どう言う意味だ?」

「変に構えなくて結構ですよ」

レイフォンがニコリと言ってのけると、幾分かニーナの強張りが取れた。


「そうか‥で、わたしはどうしたら良いんだ?」


少し首を傾げるニーナ。
さらり、と重力に従って金髪が揺れる。

レイフォンはニーナに分からない様に笑った。

「先にお願いしますけど、絶対に殴らないで下さいね?」

「?分かった」


ニーナが承諾したのを確認すると、「失礼します」と一言断って目の前の細身を抱き締めた。

腕の中の少女がビクリと震えた。


「な、ななっレ、レイフォン!これはどう言うっ」


明らかに動揺したニーナの声が上がる。

反射的に目の前の少年を殴りそうになるのをどうにか抑えた。
だが、パニックになったニーナは暴れた。


「大人しくして下さい先輩」

出来るか!と怒鳴ってやりたかった。

そんな事お構いなしにレイフォンはニーナの首筋に顔を擦り寄せ、膚の温みを楽しむ。

暫くして、ニーナは落ち着きを取り戻し、今は大人しくレイフォンの腕に収まっている。

どうしたものか、とニーナは横のレイフォンを見た。

微動だにしない彼は自分の肩に顔を埋めている。
微かな吐息が首元を擦り抜けてくすぐったい。

その感覚が何だか、可笑しな話だが、ツェルニを抱いている時に似ていると思った。

電子精霊の少女と生身の少年では随分と違う気もするが、ニーナは、似ていると思った。

ふと、ニーナは横にある、ふわふわの髪を撫でてやる。

ピクリ、と己を抱く腕が震えたのが分かった。
その後に、ぎゅう、と先程よりやや強い力で抱き締められた。

縋る様な抱擁はやはり小さな子供の様だった。


(たしか孤児だったと言っていたな)


レイフォンは寂しかったのだろうか?

小さな頃から都市の頂点に君臨していて、汚染獣とも戦っていた。

常に、死の恐怖と孤独と戦っていた。

そこには、計り知れ無い何かがあったと思う。
ただ、レイフォンはどう感じたのか、わたしは知らない。
ツェルニへ来て、居場所を得た。
グレンダンとは違う生活。

空いていたもう片方の手をレイフォンの背に回して自分も抱き締め返す。


「ツェルニが大きくなったみたいだな」

ふふ、と笑ってレイフォンの後頭部を優しく撫でる。


(ツェルニ‥)


自分はニーナにとってツェルニと同等なのか、と一人落ち込んだ。

まぁ、それはこの感触で良しとしよう。
レイフォンは一人でニヤついた。

大き過ぎず、柔らか過ぎ無い感触を自分に押し付ける。

そんな目論みを知らないニーナはレイフォンの頭を撫で続けていた。

   †

時計を見るとこの状態で30分以上もそうしていた。


「‥‥もうこんな時間か‥レイフォン、離してくれないか?」


そう言われてレイフォンは渋々ニーナを放した。

胸がひんやりと冷えた。


「充電とやらは出来たか?」

柔和に微笑むニーナの頬は恥ずかしさからか僅かに紅潮していた。


「あ、はい。ありがとうございました」


そうか、とニーナは先刻注れた冷えた紅茶をレイフォンに差し出した。

どうも、とその紅茶を受け取ってずずず、と飲んだ。


「さて、レイフォン。‥‥覚悟は出来てるな?」


ぞわりと背筋が逆立った。
ニーナを見ると満面の笑みでティーカップ、では無く、復元した黒綱錬金綱を握っていた。


「え、せ、先輩‥?あの、何で錬金綱復元してるんですか?」


恐る恐るレイフォンはニーナに訊いた。

「いや?まだバイトまで時間がある、次の大会に向けて練習でもしようじゃないか」


にっこりと花々しく微笑む少女の手には、脈打つ錬金綱が握られている。
それが不釣り合いで、本当に恐ろしい。

「はは…あははは…」

レイフォンに拒否権など無かった。


その日、訓練場からは一種類の悲鳴と、一種類の轟音が深夜まで響いていた。



やっと終りました。
製作時間二日と最短記録更新です。(馬鹿)

レイフォンがニーナを訪ねた部屋はぶっちゃけ何処か分からない管理人の妄想です。(Σ!?)
ニーナの私室の描写がまだ(管理人が読んだ段階では)出て来ていないので‥。
レイフォンと同じ寮ではないかも‥orz


実はこれ、授業中の産物でありまして。(殴)
一回測量の先生に見つかってしまいました が、私は挫け無い!(挫けとけよ)

思い立ったが吉日と凄い早さで書いた覚えがあります。
いやぁ、こんな早さで書けたんだアタシ!

この早さで宿題も片付けれたら良いのにな!(ホントニナ)

最後になりましたが、読んで下さりありがとうございました

071018加筆修正


あきゅろす。
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