novel
墨色の絆を断て†
八年、と人は簡単に口にする。
ならば確かめる術を寄越せと、見慣れぬ火傷に顔を焼かれた男が鏡の中で言った。
無造作に腰を突き上げる度、錆び付いた鉄の匂いが上がった。
慣らしもせずに突っ込んだせいで入り口が切れたのだろう。そう思いつつも動きを緩めることはなく、ザンザスは自分の下でみっともなく這いつくばった男を見下ろした。
「いっ…あ、…ふ…っ」
記憶より少しだけ低い声が、だらしなく涎を垂らして喘ぐ。パサリと乱れた銀髪はおぞましいくらいに長く伸びていて、白く滑らかなうなじを覆い隠している。
以前ならば、うっすらと上気した首筋が感じる毎に血色を増していく様を悠然と眺め下ろせたものを。
「んあ゛っ!」
ぐっと強く腰を叩き付けると、スクアーロが仰け反って喘いだ。
「緩めろ」
「や…っ、んなの、む……り…」
ハッハッ、と短い息を繋いでスクアーロが首を振る。どんな顔をしているのか気になって、ザンザスは後ろ髪を引っ掴み、無理矢理に顔を上向けさせた。
「うぐ…っ!」
少年らしい丸みを失いすっきり細く整った顎のライン。眦のあどけなさが消え切れ長に伸びた鋭い吊り目。
先刻もそうだ。外に出ていたスクアーロが、戻ってくるなりザンザスの顔をまじまじと眺めてほっとしたように小さく笑った。見たことのない、大人びたその表情が酷く不快だった。
変わらないのはここくらいか、とザンザスは嗤う。
「ずいぶんキツイじゃねえか。使い古してとっくにガバガバになってるかと思ったが」
「な゛っ!だれが…お前以外の、男なんかに…!」
苦しげな息の下でスクアーロが言う。
「貞操を守ったとでもいうつもりか、カスが」
ハッと笑い飛ばすと、スクアーロが悔しげに睨み返してくる。もっとも、苦痛と快楽に染まった眼光では威力など欠片もありはしない。
ただ、この身に触れる研ぎ澄まされた刃のような殺気には覚えがあった。
「進歩のねえ野郎だ」
凛と清冽な殺気を纏った男は、きっとあまりの無知ゆえに知らないのだろう。
その左手に繋いだ剣が、本当はいつでも誓約の証を切り捨てる役に立ったのだと。
「…馬鹿が」
ひそりと落とした声はスクアーロの耳に届かなかったはずだ。朱に染まった眦に涙さえ浮かべ、唾液と白濁にまみれぐちゃぐちゃになったツラを晒して快楽に酔っている。
「残念だったな。もうてめーに逃げ場はねえ」
指に絡んだ銀髪を思い切り引っ張り上げて悲鳴を絞り取り、ザンザスはほんの少し満足げに息を吐いた。
八年、と人はあまり口にしなくなった。
過ぎ去った時に意味などないと、見慣れ始めた不敵な顔で男が笑った。
Fine.
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