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novel
桃色の愚かさを嘆け†


 ふらふらと波に揺られるような気だるさがほんの少し心地良い。
 かすかな物音と共に柑橘系の清潔な香りがして、ザンザスがシャワーを終えたのだと分かった。
 いつもならばここで軋む身体を引き摺りつつ交代で浴室へと向かうところだが、今日はそんな気力も湧いてこない。筋一本さえ動かせない程どろどろに疲れた身体をうつ伏せに沈め、スクアーロは情事後の奇妙に静かなまどろみを漂っていた。
「カス」
 ゆらゆらと浮かび上がる意識の向こうで、ザンザスの呼ぶ声がする。再会してからこっち、この男に名前で呼ばれたことがあっただろうか…などとつまらないことをぼんやり考えながら億劫そうに返事をする。
 その声とてきちんと言葉になったかどうか。スクアーロは目を開けるのも面倒で寝たフリを決め込んだ。気に入らなければいつも通り脳天に何か降って来るだろう、と半ば自棄っぱちな気分でまどろみを貪る。
 ぎしりとベッドの端が沈み、ザンザスの気配が近付く。
 ふわりと爽やかな香りが鼻先を掠めて、何かがスクアーロの頭にそっと乗せられる。
 それがザンザスの手のひらだと気付いたのは、銀髪を通して男の温もりがようやく頭皮に伝わる頃だった。
「!?」
 ぎょっとしてスクアーロはうつぶせたまま思わず目を見開いた。不可思議極まりない展開に脳の理解が追いつかない。当然いつもの如く暴力を加えるものだと思っていたその手は、スクアーロの頭上に静かに留まったままでいる。
 この男に限って、こんな甘ったるい行為をするはずがない。いや、もしかしたら女辺りにはやっているのかもしれないが、相手がスクアーロである限り有り得るはずがないのだ。
 …それとも、自分が知らなかっただけで、これまでにもザンザスはこうして眠る自分に優しく触れたことがあったのだろうか。
 完全に起きるタイミングを逃し、だらだらとおかしな汗を垂れ流すスクアーロをよそに、今度は申し訳程度に背中を覆っていたシーツがそっと引き剥がされる。思わぬ冷気に触れ、むき出しの肌がさっと粟立った。
 シャワーの熱で温められた指先がするりと肩甲骨の辺りをなぞる。浮き出た背骨を辿られる度、ぴくりと反応しそうになる身体をスクアーロは強硬なる意志の力で捻じ伏せた。
 が、そんな思いも虚しく、無遠慮なザンザスの指は腰の窪みを撫で、白くなだらかな丘陵を辿って、ひそやかに眠る窄まりを探り出す。ついさっきまで男に散々好き勝手蹂躙されていたそこは、まだふっくらと柔らかく腫れて充血していた。
「…っ!」
 ほぐれ具合を試すように入り口の襞を撫でていた指が、呼吸に合わせてつぷりと差し入れられる。狭い襞口で出し入れされる度、くちくちと濡れた音が鼓膜を打つ。
途切れることを知らず奥から溢れてくるそれは、たっぷりと注ぎ込まれた男の情欲の証だ。体内で温められた白濁がとろりと零れて双珠を濡らすと、耐え難い羞恥にカッと体温が数度上昇した。
 ぐちゅぐちゅと粘液を掻き回していたザンザスの指先がふいに一点を掠める。強烈な悦楽がざわりと背筋を駆け上る。
「…あ」
 長く噛み締めていた唇の隙間からついにかすかな吐息が零れ落ちた。
 気付かれたか、と思う間もなく、こりこりと当たる感触を楽しむようにザンザスが指先を小刻みに動かし始める。
「んっ…ふ…っ」
 固い爪先が前立腺を抉り上げる度、スクアーロは絶望的な気分を味わいながら漏れる吐息を噛み殺した。ずっと深く突き入れられた2本の指がひときわ強くそこを抉った瞬間、とうとうなけなしの意地も崩壊した。
「ふあ゛…っ!」
 隠し切れない喘ぎ声にパッと目を開き、思わず口元を押える。
 しまった。
「…ざ、ザンザス…」
 さあっと血の気が引く音をどこか他人事のように聞きながら、スクアーロはうつ伏せのまま恐る恐るザンザスの顔を振り返ろうとした。
 が、その寸前で伸びてきた手に首根っこを抑え付けられる。
「う、ぐっ!」
 生温かいシーツに再びダイブさせられたスクアーロは、自身の背後から、地獄の亡者を総出で引き連れて来たような男の声を聞いた。
「ドカスが。このオレを騙せるとでも思ったか」
「な…っ!」
「タヌキ寝入りなんかしやがって。カスの分際でくだらねえ知恵つけてんじゃねえ」
「い、いつから気付いてたんだぁ!?」
「最初からだ」
「おあ゛ぁっ!」
 起き上がろうとしたスクアーロの背中を踏みつけ、ザンザスが容赦なく体重を掛けてくる。
「オレに刃向かうとどうなるか。忘れたならもう一度思い出させてやる」
「ちがっ、オレはそんなつもりじゃ…っ、が、ぐぁ!」
 落とされる言葉とは裏腹に、やけに上機嫌な悪魔がニタリと哂う。幸か不幸かその顔を見ることは出来ず、スクアーロは潰された肺に酸素を送り込もうと苦しげにもがいた。
「てめーの汚えツラに用はねえ。ケツだけ上げて無様に喘いでろ」
 言うなり、両手で割り開かれた双丘の狭間に、熱く猛ったものが突き込まれる。
「ひ、あ゛…っ!」
 多少慣らされたとはいえ、膨張しきった男のものはスクアーロの狭隘を容赦なく引き裂いた。異物を押し出そうと内壁が蠢き、敏感になった襞は浮き出た血管の形まで感じ取る。
 掴んだ腰ごと乱暴に揺さ振って、ザンザスが根元まで呑み込ませようと深く自身を沈めた。太く張り出した先端がごりっと前立腺を抉って、たまらない悦楽にぶるっと全身が震える。
 理不尽な痛みに息も絶え絶えになりながら、スクアーロは男の望むままぎくしゃくと腰を振った。
 ああ、やはりザンザスはザンザスなのだと思い知らされた気分だ。
 愚かにも甘やかな幻想を抱いた数分前の自分を、この手でかっさばいてやりたい。
「あっ、んあ、あ、あ…」
 生理現象か、気持ち良さか、それとも別の何かか。眦に滲んだ涙が頬を伝って、スクアーロはひっそりとそれをシーツに染み込ませた。


Fine.


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