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novel
bacio agrodolce/ベルマモ


 甘いものが好きだとは知らなかった。
 身体に似合わない大きな紙袋にぎっしり大量の5円チョコを詰め込んで帰ってきた時も、ただ安いから好きなんだと思っていた。
 小さく切り分けられたティラミスが次々と口元に運ばれていく。いつも無愛想に下がった唇が今日はわずかに緩やかな弧さえ描いていて、向かい側でもぐもぐと動くそれをベルはテーブルに突っ伏したまま物珍しそうに見つめていた。
「なあ、それってそんなに美味い?」
 だらりと伸ばした腕に頭を乗せて、上顎をかくかくさせながら聞く。ん?と問い返すように顔を上げたマーモンが、フンと鼻を鳴らしてベルをからかった。
「君も欲しかったなら、さっきルッスーリアに貰えば良かったじゃないか」
 ティラミスを作ってみたんだけど、味見してくれない?と気色悪い動作で小首を傾げながらルッスーリアが現れたのは十数分前のことだ。その乙女チックな仕草にげんなりしてベルは即刻断ったのだが、元来守銭奴なマーモンがタダでくれるというものを断るわけがない。
「オカマの作ったドルチェなんてこっちから願い下げだっての。けど一口くらいなら食べてやってもいいぜ」
「あげないよ。これは僕のなんだから」
「ちょっとくらいいーじゃん。マーモンのケチ」
「フフン、最高の褒め言葉だ」
 言いつつフォークを閃かせたマーモンに、ベルはべーっと舌を突き出してやった。そんなベルを無視し幸せそうにドルチェを食べ続けているマーモンを見ていると、なんだか腹の底がムカムカしてくる。
 ガタンと椅子を倒す勢いで立ち上がり、ベルは行儀悪くテーブルの上に乗りあがった。
「何するんだい、ベル」
 握り潰せそうなほど細い手首を掴み、今にも口に運ばれようとしていたティラミスにかぷりと食いつく。ついでとばかりに身を屈め、ムッと横一線に結ばれたマーモンの唇をぺろりと舐めてみると、ほんのり柔らかな甘さと微かな苦味が喉の奥を滑り落ちていった。
「ふーん。ま、悪くないじゃん」
「勝手に人のドルチェに手を付けておいて、僕に一言もなしかい?」
「うるさいな。そんなに言うんなら倍にして返してやるよ」
「夕食のドルチェ1週間分、忘れたら期間延長だよ」
 チェッと舌打ちしてベルはひょいとテーブルを飛び降りた。奪い取ったティラミスの味はやけに甘くてほろ苦くて。
 なんだか、癖になりそうな予感がした。


Fine.



深い意味はない。でもこれが初チュー。


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あきゅろす。
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