novel
月白の鏡を隠せ2†
それすらどうでもいいと思えて、スクアーロは色気の欠片もなくがばりと脚を開いた。無理を強いられた股関節が軋み、後ろまで淫液を垂れ流した自身もあらわになったが、もう構うものか。
男の蜜で汚れた指をまとめて自分の口の中に突っ込み、さらに唾液を絡ませる。たっぷり濡れたそれをまとめて後孔に押し込むと、噛み締めた唇の隙間からさすがに苦しげな呻き声が洩れた。
「ぅ、…あ…っ」
敏感な内壁を伝うとろりとした感触は数刻前に男が放ったものだ。それを掻き回すようにしてもう一度受け入れる準備を施そうとするが、分身よりも我慢のきかないそこは指なんかよりも太く熱い肉棒を欲してぎゅうぎゅうと締め付けてきている。
興味なさ気にしばらくその様子を眺めていたザンザスが、突きつけた銃はそのままで反対の手をスクアーロの下肢へと伸ばした。
「ぐああぁっ！」
ザンザスの腹の上にまでだらしなく蜜を零すスクアーロのモノを、躾け直すようにぐっと握り締める。一片の容赦もなくギリギリと力を込めて絞られ、スクアーロの喉から悲痛な叫びが迸った。
それでもなお、蜜口にとろりと盛り上がった液体は次々に溢れてザンザスの手を濡らしていく。更に絞り取るように男が握った手を上下させると、くちゃくちゃと卑猥に濡れた粘着音が響いた。
「ん…ぁ…ボ、ス…」
さっきまでの痛みを凌駕する気持ちよさに、スクアーロは思わず男を誘うように腰を揺らし始めた。まるで仕事を忘れた娼婦のようだと思ったが、昂ぶった自身を鎮めないことにはマトモな思考さえ取り戻せない。
「オレの気の済むまでやってみせろと言ったはずだ」
つまり自分は何もしないと言いたいのだろうか。
ギリギリと奥歯を噛み締めて、スクアーロはすました男の面を見下ろした。
確かに、妙な雰囲気に流されて男を誘うような真似をし出したのはスクアーロ自身だが、自分だってどうせやることはやるんだからもう少し協力してくれたっていいだろう。
が、ここで余計なことを口にしてボスのご機嫌を損ねたら、欲しいものを与えられないどころか躊躇なくトリガーを引かれかねない。
打ちかけた舌を寸前で翻して、スクアーロはそそり立つ男のモノに手を伸ばした。中はまだ開き切っていないが、構わず入り口に先端を押し当てぐっと思いきり腰を落とす。
「う゛…あ…」
後ろからめりめりと引き裂かれるような音がしたが、一度も動きを止めることなくスクアーロはこの世で唯一最奥の疼きを癒してくれる熱杭を根元まで呑み込んだ。
「おい、待…っ、あ゛ああっ！」
息を整える間さえ与えず、ザンザスが下からずんと思い切り腰を突き上げてくる。さすがに一瞬抵抗しかけ、同時に与えられた爪先まで突き抜けるような快感にスクアーロはぶるりと全身を震わせた。
「…は、っあ…」
ずっぷりと男を咥え込んだそこに指を這わせると、限界まで引き伸ばされた襞がめくれてぬるりと新たな鮮血が滲み出している。痛みさえ感じないのは慣れてしまったからなのか快感が過ぎるのか。
ガクガクと突き上げられる度視界が揺れて、長く垂れた銀髪が無造作に跳ねた。されるがままになっているのも癪なので、ずくんと突き上げられた瞬間に自ら腰を沈め、普段届かないほど奥の狭隘で男の括れを締め付けてやる。
快感に呻きこそしなかったが、無表情を保っていたザンザスの頬がぴくりと動いたのが分かってスクアーロは思わず笑った。
「っ！あ、あ、あっ…！」
それが気に食わなかったのか、ぴたりと眉間に銃口を押し当てたまま男が突き上げる速度を速めてくる。もはや腰を揺らす余裕さえなくなって、スクアーロは両手で自身を扱き上げながら流される本能のままに喘いだ。
「んあ、あっ…、あ゛あっ！」
びくんと首が天を仰ぎ、尿道を引き抜かれるような感覚とともに、噴き出した白濁がぱたたと男の腹を濡らす。同時にどくりと注ぎ込まれた奔流が狭い孔壁を埋め尽くして、一滴たりとも逃すまいと引き絞られた肉襞が勝手にぞわぞわと蠢いた。
先端から出るものがなくなっても、放り上げられた場所からなかなか降りてくることが出来ず、スクアーロはか細い声を上げながらひくひくと全身を震わせていた。
不意にがくりと上半身がくずおれ、長く突きつけられていた銃口がようやく眉間を離れる。
「てめーの気は済んだか、ドカス」
そう問うてくるザンザスは、呼吸の一つさえ乱れていない。勝ち誇った紅い瞳を悔しげに睨み返して、スクアーロは微かに汗ばんだ男の胸元にぺたりと頬を押し付けた。分厚い筋肉越しに伝わってくる鼓動はいつもより少し早いリズムを刻んでいて、何故か安心する。
ふと視線をずらすと、左胸を斜めに切り裂くように古い火傷の痕が走っていた。あと少し伸びたら胸骨の下、ちょうど心臓の上だ。
成長することなどないそれの侵攻を押し留めるように、スクアーロは歪な痣を舌先でなぞった。肌とは違うその感触を確かめるように指で辿り、繰り返し唇を落としていく。
酔った狂信者のようなその行為を、ザンザスはどう思っただろう。
それでも、やめろと言われなかったのは、やはりスクアーロと同じく闇夜に浮かぶ月影の魔力にでも魅せられていたのか。
いや、己の目に映り、触れ、確かめられる物しか信じないこの男に限って、それはないだろう。
スクアーロとて、真に酔わされたのは手の届かぬ優麗な月などではない。
「まだまだ、こんなもんじゃ足りねぇな」
未だ体内に留まったままの楔を引き絞るようにして締め付け、スクアーロは紅き心臓の上へ口づけを落とした。
見えるか、あの黒雲が。
雄大なる空を覆い音もなく近付いてくるそれは、新たなる創生のため破壊の豪雨を孕んでいる。
さあもう逃げ場はない。閉じ得ぬ瞼を開いて天を仰げ。
そこに、月は見えるか。
Fine.
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