[携帯モード] [URL送信]

novel
月白の鏡を隠せ1†


 静寂を絵に描いたら水面に映る月影になるのかも知れない。
 カーテンを閉め忘れたせいで、遠慮呵責のない満月が煌々と寝台の上を照らし出している。色素の薄い瞳には少々鬱陶しいが、久々に見上げるそれを綺麗だと思えるくらいにはスクアーロも風情という言葉の意味を理解していた。
 繰り返し聞こえてくるのは自分の呼吸と心音、そして時折混じる重い鉛の擦過音。
 首だけ傾けてそちらをみやると、長い両脚をソファに投げ出して、ザンザスが愛銃の手入れをしているところだった。
 いつからだろう。こうして夜中に目を覚ましたとき、時折その傍らに男の存在を感じられるようになったのは。行為が終わる度、後始末さえ出来ずベッドに捨て置かれていた頃に比べれば大した進歩だ。
 最も、今とて身動ぎすれば身体の奥から流れ出してくるものがあるから、その点に関しては変わりないのだが。しかし、この時間は確かに存在している。
 組み付けたトリガーの感触を確かめながら、ザンザスが拭き終えた銃身のチェックをしている。スクアーロが目を覚ましていることには気付いているのだろうが、こちらを振り向く気はないらしい。
 凪いだ海のように静かで、穏やかなこの時間はたまらなく愛しく尊いが…同時に酷くもどかしい。
 ギシギシと鈍く痛む身体を起こしてベッドを降り、スクアーロはシーツのシャツの一枚さえ身に付けないままソファへと歩み寄った。
「なあ、ザンザス…」
 男の腰を跨ぐようにして乗り上がり、バスローブの隙間から覗く逞しい胸元に指を這わせる。
「何のつもりだ、カス」
 カチャリと聞き慣れた音がして、こめかみに銃を突きつけられた。予想通りとも言うべき反応に思わず洩れそうになる笑みを噛み殺して、それには答えず襟元を寛げる。
 頬を寄せると、馴染んだ男の体臭に混じってふわりと清潔な香りが鼻腔をくすぐった。人のことは放り出しておいて、自分はさっさとシャワーを浴びてきたらしい。これもまた腹立たしいというか、ザンザスらしいと言うべきか。
 身を守る剣どころか服の一枚さえ纏わず、こめかみに銃を突きつけられている。気紛れに男がトリガーを引いたら、スクアーロの頭など握り潰した林檎のように吹っ飛ぶだろう。
 それを分かっていながら、スクアーロは伸ばした舌で鎖骨をなぞり、骨張った窪みに思い切り噛み付いた。
「てめー…」
 痛みより不快が勝ったのか、ぐっと低まった男の声が怒気をはらんで鼓膜を震わせる。
 くっきりと浮かんだ紅い歯形を指先でなぞって、スクアーロは首の付け根に浮かぶ引き攣れた火傷の痕にまで舌を這わせた。
 どれほどの願いを込めて癒しても、一生消えることのない痕。いつかザンザスが死する瞬間まで背負うべき、己の弱さの象徴。
「…おい」
 しばらくスクアーロの好きにさせていた男が、スクアーロの銀髪を鷲掴みにしてぐっと上向かせる。絡み合った視線の先で、紅い瞳にちりちりと燃える情欲の炎を見た。
 ここでしてやったり、などと口に出したら、一瞬でかっ消されるだろうが。
「何してやがる」
 少し掠れた男の声がとてつもなく色っぽい。どくりと下半身を直撃したそれに、スクアーロは引っ掴まれた頭皮の痛みも忘れてニタリと笑ってみせた。
「前戯、だろぉ」
「…ほう」
 面白そうに片目を眇めたザンザスが、邪魔な銀髪を押しやるようにして自分の下肢へと跪かせる。
「ならオレの気が済むまでやってみせろ」
 気に入らなかったら即座にかっ消す、とでも言わんばかりに、その間もこめかみに突きつけられた銃は微動だにしない。
 珍しく抵抗の言葉を吐かないまま、スクアーロは惹き寄せられるようにバスローブの合わせ目に手を伸ばした。
 眼前に現れたそれは既に少しだけ反応を示していて、恭しく捧げ持ち唇を寄せるとスクアーロの手の中でぐっと首を反らした。
「ん…、は…ぁ」
 繰り返し丁寧に裏筋を舐め上げ、太い先端を舌で包んではぐりぐりと尿道口を抉る。零れた淫液は全て吸い上げ、思い出したように双珠を揉みしだくのも忘れない。
 いつの間にか勝手に仕込まれた舌技は男の性感帯を確実に捉えているらしく、割れて盛り上がった腹筋が時折ぴくりと震えるのが小気味良かった。
 ザンザスのモノと同じくらい、もしくはそれ以上に反り返った自身は、とうの昔から慎みを忘れてダラダラと涎を垂らしている。少し角度を変えたら丸見えだろうが、男の腹に乗り上げ顔を伏せて腰を掲げているので、ザンザスからは辛うじて見えていないはずだ。
 だが、見えていないからといってばれていないとは限らない。スクアーロの愛撫を受けても眉一つ動かさないこの男には、触れられることすらなく白濁混じりの先走りを零している自身も、疼きを鎮めて欲しくてパクパクとひくついている孔の様子も、どうせ全部見抜かれているだろう。
 それでいて一指たりとも触れてくれないのは、ある意味焦らしプレイというやつだろうか。
 不意にぐっと額を押されて、男のモノがずるりとスクアーロの口腔から引き抜かれた。
 ぬめるような光沢を放つそれと唾液で汚れた唇の間に白い糸が伝う。それすら惜しくて舌を閃かせ舐め取ると、ザンザスが見下すように嘲笑った。
「ド淫乱が」
「…るせぇ。なんか今夜はそういう気分なんだぁ」
 どういう、などと今更説明する必要はないだろう。玩具を取り上げたまま何もしようとしないザンザスに、スクアーロは舌打ちして男の腹に手をつき身を起こした。カチャリと小さな音がして、冷たい銃口がこめかみから眉間に移る。


[*前へ][次へ#]
[戻る]


あきゅろす。
無料HPエムペ!