novel
赤紅の飢えを満たせ†
ぎりりと立てた爪の下で、シーツが白い波を作る。この部屋に来てからもう何時間経つのだろうかとか、そういう意味のないことは考えないことにしていた。
綺麗に整えられていた寝台はもう見る影すらなく、洗い立ての清潔な香りは淫猥な蜜の匂いに濡れている。
「はぁっ、あっ…ん…」
大きく息を吸い込むと野性味のある男の体臭が鼻腔を掠めて、スクアーロはぞくりと身を震わせた。
揺さ振られるまま空を蹴っていた足先からだらりと力が抜ける。乾いたシーツに両脚を下ろすと、太腿の付け根に滞留した血液がざっと末端まで流れ落ちて行くのが分かった。
「おい、誰が下ろしていいと言った」
上から不満げな声が降ってきて、スクアーロは荒い呼吸を整えながらじろりとザンザスを睨み上げた。
「る、せぇ…ちっとは休ませろぉ…」
喘ぎ続けてすっかり掠れてしまった声にはいつもの覇気がない。一片の慈悲に縋って、スクアーロはもう終わりにしてくれという懇願を声音と銀の瞳に滲ませた。
が、一瞬でもそんな情けをこの男に期待した自分は本当にめでたい奴だと思う。
ずっぷりと奥まで埋め込んだ屹立を無造作に突き上げて、ザンザスが続けざまに容赦ない律動を叩き込んでくる。
「オレはまだ終わってねえ」
「あっ…は、ん…っ!」
弱々しい嬌声を零して吐き出して仕方なく膝を立てるが、腰から下が重い鉛のようで力が入らない。伸ばした手で何度か脚を持ち上げようとして失敗し、スクアーロは諦めたように掠れた息を吐き出した。
「チッ、使えねえ」
そのままの体勢では動きにくいのだろう。スクアーロの身体の両脇に手をつき、腰を支点に思うまま突き上げていたザンザスが、舌打ちしてずるりと楔を引き抜く。
「んあっ」
過敏になっていた粘膜を無惨に擦られて、スクアーロは小さく声を上げてのけぞった。
体位が不満なら自分で脚を抱え上げてくれればいいだろうと思ったが、そんなこと言ったらヤブヘビになりそうなので黙っておく。
「もっと体力つけやがれ、カスが」
「う゛お゛ぉい!オレを誰だと思ってんだ!」
ギッと目を吊り上げてスクアーロは怒鳴った。
さすがに今の言葉は聞き捨てならない。人並外れた体力や能力があるからこそのヴァリアー幹部だ。そして中でもあらゆる面で抜きん出ているからこそ、皆がこの男をボスと崇めている。
「お前のバケモノじみた体力が異常なんだぁ!」
続けざまに叫ぶと、一瞬目の前が白くなった。
「…っ」
軽い貧血だろうか。さすがにこれ以上続けられたら本気で起き上がれなくなりそうだ。Sランク程ではないが明日は任務の予定も入っているし、ザコ部下を指揮しての任務だから無様な姿は見せられない。
…だが、こんな中途半端な状態で終わらせたら任務から帰ってきた後の方が怖かった。
チラリと男の下肢を見下ろしてスクアーロはごくりと唾を飲み込んだ。
てらてらと淫液にまみれてそそり立つそれは、萎えるという言葉の意味を知らないらしい。覚えているだけで今日はもう4度も放っているはずなのに、未だ隆々と天を衝き血管を浮き上がらせている。
ひくひくと切なげに震える自分の方は袋ごと根こそぎ絞り取られて、蜜どころかなけなしの先走りも出やしないのに。
「あー…、ボス。口でしてやろうかぁ…?」
一応気を遣って言ってみたつもりだが、ボスのお気には召さなかったらしい。
「ハッ、ドカスが。てめー如きのテクでオレをイかせられるとでも思ってんのか」
「よく言うぜぇ。仕込んだのはお前だろうが」
「咥えただけで漏らすような淫売にしつけた覚えはねえ」
「う゛お゛ぉい!誰が淫売だぁ!!」
「るせぇっ」
鬱陶しそうに鼓膜を遠ざけてザンザスが気紛れにスクアーロの肌を撫でる。ついでのように胸の尖りを爪で引っ掻かれてぴくりと身体を跳ねさせると、男が面白そうに口端を上げた。
「そんなに使って欲しけりゃオレの役に立ってみせろ」
言いつつ、スクアーロの腰の下に枕を挟んで無理矢理腰を上げさせる。無様に開き切ってだらだらと白濁を垂れ流していた後孔に、節くれ立った親指を突っ込まれ左右に広げられた。
「う゛お゛ぉい、まだやる気かぁ」
捲れた赤い襞と腫れ上がった入り口が空気に晒され、スクアーロは力なく身を捩って形だけの抵抗を示してみせた。どうせ逆らったところで男の好きにされるのは目に見えている。
「誘ったのはてめーだ」
誘ってない、と言い返す間もなく、再びずぶずぶと太い楔が埋め込まれていく。散々擦られた中は酷く敏感になっていて、隘路を引き裂かれるのとはまた違った鈍い痛みがあった。なのに、慣らされた身体は苦痛と快感を紙一重にしか捉えない。
「んっ、あっ…ボスっ!」
「…ふ」
根本まで収めきるとザンザスが掠れた吐息を零した。滅多に聞けないそれにスクアーロの奥が勝手にきゅうっと収縮する。どろどろに溶けた中を惨いくらいに掻き回して欲しくて肉襞は貪欲に蠢き出す。
しかし気力も体力もとうに限界を超えていてシーツに沈んだ身体は思うように動かせない。仕方なしにのろのろと腕を上げて、スクアーロはザンザスの首に縋りつくように手を回した。
「…なぁ、抱き締めてくれよ、ザンザス」
「あ?……てめー、何言ってやがる」
「最後まで付き合ってやるから、お前もちょっとは協力してくれぇ」
男の首を引き寄せると、散々弄られて赤く腫れた乳首の先に逞しい胸板が触れた。ぴくりと身を震わせ立てた膝で腰の辺りを締め付けるようにすると、ザンザスがほんの少しだけ身体を寄せてくれる。
吸い寄せられるようにお互いの身体が重なる感じは、難解なパズルのピーズが填るときの喜びにどこか似ていた。互いを欠いていた一対の存在がようやくあるべき場所を見つけたように。
「動くぞ」
「…ん」
微かに頷くと、ザンザスがスクアーロの腰を抱えて激しく上下に動かしてくる。同時に下からぐんと突き上げられると、ちょうどイイところを張り出した先端が抉ってついに痛みより快感が勝った。
「ああっ!ん…はっ、あ、あ…」
容赦のない動きはさっきと変わらないが、腰に添えられた手が庇うように支えてくれているような気がするのは自分の願望がなせる業だろうか。
ひそりと笑ってスクアーロは回した両腕にぎゅっと力を込めた。あまり強く抱きつくと男にとっては動きにくいかもしれないが、そんなことは気にしない。
触れ合った体温がザンザスの鼓動を伝えてきて、とくとくと皮膚を打つそれが妙にくすぐったかった。
溶け出した熱を呑み込んで高まるスクアーロの心音を、ザンザスも繋がり合った身体から感じ取っているのだろうか。
そうだったらいいと、少しだけ思う。
身体の奥に脈打ち震える熱を浴びて、スクアーロは男の肩にがりっと噛み付いた。
取り戻せ、この身に欠けているものを。
あの日から止まったままの呼吸を、音さえ聞こえぬ鼓動を、触れられぬ体温を。
飢えた半身を満たし尽くすのは、お前という存在でしか有り得ないのだから。
Fine.
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