[携帯モード] [URL送信]

novel
長春色の言霊を読め


 ちょうど広間の真ん中を突っ切るように、キラリと光を弾いた何かが宙を舞った。
 扉を開け放していた広間の入り口をくぐり、一直線に廊下へと飛んでいく。
「がっ!」
 パリンと悲愴な音がして、粉々に砕け散ったグラスの残骸が絨毯の上に落ちた。
 それと同時に聞こえた声を、誰のものかと問う必要があるだろうか。
「う゛お゛ぉぉぉい!」
 額を押さえながら広間へ入って来たスクアーロが、あらん限りの怒声を上げる。その視線の先では、複雑な意匠を凝らした玉座に背を預け、男がふてぶてしくテーブルに両足を投げ出していた。
「何の用だぁボス!オレだっていい加減腹も減ってんだ!メシくらい食わせろ!」
 ヒュッ。
 空気を切り裂くように飛んだのは、今度は銀製のプレートのようだ。スコンと軽快な音が響いて、またスクアーロの悲鳴が上がる。
「ってぇ!だいたいお前がくだらねぇワガママばっかり言いやがるからオレの雑用が増えてんだろうが!少しは働けクソボスがぁ!」
 ガシャン。
 今までより少し重たい音がした。つられるように下を見れば、美しかった陶器の花瓶が見るも無惨な姿に変わり果てている。しかし花も水も入っていないところを見ると、気を利かせた誰かが空の花瓶とすり替えたのだろう。
 が、どちらにせよそれを脳天に喰らった方は堪ったものではない。
「ぐあっ!」
 両手で頭を抱えながらジロリと男を睨み上げ、スクアーロが殺気に似た怒気を噴き上げる。
「…てめぇ、いい加減に…!」
 ビュン。
「お゛あっ!」
 今までとは比べ物にならないくらい重く鋭い音が響いて、スクアーロは勢いよく首を反らした。
 ストッというやけに軽い音と、ビィィンと響く鈍い振動音が続く。
 恐る恐る両眼の焦点を合わせると、鼻先数センチのところで壁に突き刺さっているのは、よく磨き上げられた銀の燭台だった。あと一歩遅かったら、この鋭い先端が確実にこめかみを貫いていただろう。
「あっぶねぇ…」
 思わずといったように洩れた呟きに自ら舌打ちして、スクアーロはクソッと悪態をついた。
「リョーカイだ、ボスさんよぉ!ただしオレのメシが先だぁ!」
 奥を振り向き憎々しげに叫び返して、再び足音高く広間を出て行く。


 同じ広間のソファで爪の手入れをしていたルッスーリアは、隣でナイフを磨いているベルフェゴールにひそひそと声をかけた。
「ねえベルちゃん。私の気のせいでなかったらあの二人、いま会話してたように見えたんだけど」
「してたんじゃね?スクアーロが一方的に」
「でもちゃんとボスの言いたいことが分かってたみたいよ?」
 グラスとプレートと花瓶と燭台で。
「脳天にいろいろ喰らい過ぎて、超能力にでも目覚めたんじゃねーの?つか以心伝心?しししっ」
「もしそうだったら、一度お医者さんに診て貰った方がいいかしら…」
 困ったわねぇと呟いてルッスーリアは溜息をひとつ零した。


Fine.


《オマケ》

「う゛お゛ぉい!オレは忙しいんだ。これからウチのワガママボスのとこにコイツを持って行かなきゃならねぇんだからな!…あ゛あ?ザンザスがさっき何言ってたか教えろだと?んなこと聞いてどうすんだルッスーリア!…まあいい、さっきのは『そこで何してやがるカス』、『てめーにんな暇あると思ってんのか』『オレに口答えすんな』『ドカスが。ついでに酒の追加も持ってきやがれ』ってとこか。それがどうした。…あ?なんで分かったのか、だと?んなことオレが知るかぁ!カンだ、カン!」


[*前へ][次へ#]
[戻る]


あきゅろす。
無料HPエムペ!