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novel
生成り色の香を纏え2
「脱げ」
「はあ゛!?なんなんだよお前、意味わかんね…」
「てめーで脱ぎたくねえなら燃やすぞ」
 脱がすぞではなく燃やすぞと言い出す辺りがザンザスらしい。などとつまらないことを考えていたら、ゴオと一瞬熱気を噴き上げた憤怒の炎が服の袖を掠めて、本当に焦げた煙が上がった。
「お゛わっ!てめぇなにしやがる!」
「さっさと脱げ」
「…チッ、脱ぎゃいいんだろ、脱ぎゃあ…」
 訳が分からないまま、スクアーロは渋々服に手を掛けた。上着とズボンを脱ぎ捨ててからチラリとザンザスを見、無言の視線に促されて仕方なく下着も脱ぎ捨てる。
 一糸纏わぬ裸体を晒してから、どうせ今更隠す必要もないだろうと腰に手を当ててスクアーロは男に向き直った。まったく一体何を考えているのか、ザンザスはスクアーロの脱ぎ捨てた服を触るのも汚らわしいというように浴室の隅へ乱暴に蹴りやっている。
 無造作に掲げた拳に再び炎が点され、男が光球を放り投げるように手首を捻る。勢いよく弾かれた炎は真直ぐ綺麗な直線を描いて飛んでいった。その先にあるのはもちろん、隅へ蹴りやられたスクアーロの隊服だ。
「う゛お゛ぉい!ちょっと待っ…!」
 スクアーロが止める間もなく炎は一瞬で服へと燃え移り、瞬く間に黒煙を噴き上げた。
「ふざけんなてめぇ!あれなかったらオレどうやってこの部屋から出りゃいいんだぁ!」
 当然ぐわっと牙を剥いてザンザスに食って掛かると、男は無表情のままスクアーロの身体を浴槽の方へと突き飛ばした。
「てめーはそっちだ」
「な゛っ!」
 さらりと揺れた銀髪を掴んで頭を押さえ付け、シャワーのコックを捻る。
「冷てぇっ!」
 ザアッと肌を切るように冷たい水が一気に降り注いできて、スクアーロはびくりと身体を跳ねさせた。反射的に息を大きく吸い込んでしまい、気管に水が入ってごほごほとむせる。
 だが、頭を押さえ付けているザンザスの手は一向に緩む気配すらない。冷たさと苦しさにもがきながらスクアーロは剥き出しの肌を水流に晒し続けた。
「て、めっ…いい加減に、しろぉ!」
 冷水に肌が慣れてくると、ようやく噛み付き返す余裕も出てくる。顔に張り付いた銀髪の隙間からジロリと睨み上げると、そこには一見静かな紅色の瞳に恐ろしく冷酷な色を浮かべたザンザスがいた。
「っ!」
 いつもスクアーロを興奮させる、あの燃え滾るような熱い怒りではなく、ぞっと底冷えのするおぞましい怒りだ。
 肌を切る水だけではない冷たさを感じて、スクアーロはぶるりと身震いした。
「ザ、ザンザス…」
 もつれそうになる舌を動かして名を呼ぶと、男が一瞬はっとしたように眼球を揺らした。
 何が面白くなかったのだろうか、チッと不愉快そうに舌打ちしてスクアーロを押さえ付けていた手を離す。
「カスザメが」
「ぐあっ!」
 間髪入れずごんっと頭に叩き付けられたのは、見覚えのあるボディーソープのボトルだ。ザンザスの部屋にある他の品と同様、自分のでもないのにスクアーロがいつの間にか使い慣れてしまったものの一つだった。
「とっとと洗え。カス馬の不愉快な匂いをきっちり洗い流してこい」
「う゛お゛ぉい!まさかお前が気にしてたのはそれかぁ!」
 他の男が付けていた香水の匂いを、自分がまとっていたから。
「んな下らねぇことでいちいち服燃やされてたんじゃ堪んねぇぞぉ!」
 ザンザスの炎にまかれたスクアーロの服は、とっくに燃え尽きて時折ぶすぶすと切ない煙を上げている。
「どーすんだよあれぇ…」
「服ぐらい施してやる。てめーはさっさと身体を洗え」
 そう言い捨ててザンザスが浴室を出て行く。水流に晒し続けていた男の服もかなり濡れていたようだったが、気にしてはいないらしい。
「…クソッ」
 投げやりに罵ってスクアーロはシャワーのコックを捻って温度を調節した。冷水が温かな湯に変わってじんわりと肌を潤していく。
 チラリと足元に視線を落とし、ぼたぼたと湯を弾いているボディーソープのボトルをついでに拾い上げる。
 ザンザスの浴室に備え付けられたそれはスクアーロの部屋のものより質が良く、洗い上がりの滑らかな肌触りが、密かにスクアーロのお気に入りだった。
「どーせ後で風呂に入るつもりだったし、おんなじかぁ」
 誰にともなく言い訳するように呟いて、とろりとした液体をタオルに擦り付ける。くしゃくしゃと手の中で泡立てると、らしくもなく控えめで清潔な香りが鼻腔をくすぐった。
「やっぱいいよなぁ、これ…」
 思わず綻びそうになる顔を慌てて引き締めて、伸ばした腕にタオルをごしごしと乱暴に擦り付ける。
 メイドの誰かに頼めば明日にでもこれと同じボディーソープがスクアーロの部屋に届けられるはずだ。だが、何故かそうしようという気は起きなかった。
 この香りはここにあるべきもの。なんとなくそんな気がする。
「…とりあえず今は、服をなんとかしねぇとなぁ」
 あの男が本当に気を回して新しい隊服を用意してくれるとは思えない。だが自分の服を取りに部屋へ帰るためには、結局ザンザスの服を借りて外へ出るしかないのだ。
 万が一、幹部の誰かと廊下で擦れ違いでもしたらどう言い訳しようと考えながら、スクアーロは手の中のタオルをくしゃりと泡立てた。


Fine.

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