novel twitter log3 ●鮫いびりのチャンスは逃しません 「トリーックオアトリーート。お菓子くれなきゃ殺っちゃうよ」 「早ぇよ!まだハロウィンじゃね…って、あーもうそんな時期かぁ」 「何そのしっぶい顔。ハロウィンに恨みでもあんの?」 「いや…まぁそろそろあっちのデカイ子供にも何か準備しねぇとだなぁ」 「しししっ、んなもん用意しなくったって毎日イタズラされてんじゃん。末路は変わんなくね?」 「と思って去年スルーしたらイタズラ3倍増で喰らったからなぁ…」 「……」 ●ボスに要らん話を吹き込んだのは骸さんです 「おいカス、今日何日か知ってるか」 「あ゛?11/22だろぉ?」 「ジャッポーネでは11/22をいい夫婦の日というらしい」 「へー…で?」 「……」 「う゛お゛ぉい、それと朝っぱらからオレがベッドに押し倒されてるこの状況と何の関係があるんだぁ」 「……#」 「っでぇ!何でそこで殴んだぁ!」 ●お疲れボスのバスタイム 「う゛お゛ぉい!ボス、ちゃんと起きてるかぁ」 「……起きてる」 「嘘吐けぇ。思いっきり寝起きの声出しやがって」 「うるせえっ」 (面倒なので中略) 「あっ、ちゃんとリンスとトリートメントもしろぉ!」 「あ?んなもん要るか」 「ダメだぁ!シャンプーだけだと指通りが悪くなる」 「女かてめーは」 「な゛っ!言いやがったなぁ!見てろ!オレがヴァリアークオリティを駆使してお前の髪もサラサラにしてやる!」 「あ゛あっ!?必要ねえと言ってるだろうが!」 (再び中略) 「気持ちいいかぁ?」 「…フン」 「ったく素直じゃねぇなぁうちのボスさんは。…ほら、ここがイイんだろ?」 「……」 「イイならイイって自分の口ではっきり言…お゛あっ!冷てぇっ!」 「頭は冷えたかドカス」 「冷えたかじゃねぇよ!オレの服までびしょびしょじゃねぇかぁ!」 「てめーがくだらねぇこと考えるからだ」 「…チッ。これから面白くなるとこだったのになぁ」 「今度はオレの番だ」 「え?」 「イイならイイってはっきり言えよ、ドカス」 「あ、ちょ、待…っ、…あぁっ!」 ●コンビニ肉まん初挑戦 「そんな凝視しなくても毒は入ってないぜぇ?」 「……」 「ったく仕方ねぇな。……ほら、オレが半分食えば文句ねぇだろぉ?」 「…フン」 「(ふーっふーっ)」 「何してやがる」 「オレは熱いの苦手なんだぁ」 「ほう…練習させてやろうか」 「…へ?」 「猫舌は舌使いが下手らしいからな。オレがじっくり仕込んでやる」 「って何の練習させる気だぁ!!」 ●倉庫掃除をしていたら、古ぼけたセコ様の写真を見つけました 「へぇ、いい男じゃねぇか!」 「フン、どこがだ」 「やっぱお前に似てるって言われるだけのことはあるなぁ!」 「……」 ●鮫的女性体験 初体験はあの男と出会う前だった。 剣一本引っ提げ、各国を渡り歩いてたあの頃。薄汚いバーの片隅でまだ慣れぬ酒をちびちびやっていたら、場末の娼婦が声をかけてきた。 「ボウヤ、お姉さんと遊んでいかない?」 「オレはガキじゃねぇ!」 「あら、ふふっ…ごめんなさい。お詫びに今夜は特別サービスしてあげるわ」 次はゆりかごの後。大して好きでもないテキーラをまずそうに啜っていると、暇を持て余したらしい高級娼婦が気まぐれに声をかけてきた。 「お兄さん、私と遊んでいかない?」 「……」 久方ぶりの女の肌はただただ柔らかく優しく温かく、包み込むような慈愛に満ちていて。暴力と理不尽と痛みばかりだった誰かさんとは全然違っていた。 それから女は抱いていない。 ●寝言ですから 「…スクアーロ…zZ」 「(ドタドタドタ、カチャッ)呼んだかぁ?ボス」 「うるせぇっ!誰がてめーなんか呼ぶか!!」 ●年に一度本当のことが言える嘘つきの日 「Ti amo、Squalo」 「は?…はあ゛っ゛//!?…って、あーはいはい、今日はエイプリルフールな」 ●かつての興味と今の苛立ち 手首はほっそり滑らかなのに、手の平は剣ダコだらけなスクアーロの左手。骨格からして自分とは違う身体の造りを物珍しそうに弄り回す度、あの頃のスクアーロは頬を染めきまり悪そうに手を引っ込めた。 今、血の通わぬ偽物の左手をシーツに縫い止め力任せに握り潰しても、スクアーロは何も言わない。昔と変わらぬ華奢な身体を自身の下に引き込みながら、ザンザスはつまらなそうに舌打ちした。 ●お前がくれるものは全部受け止めるから ガツリと前歯のぶち当たる音がして、嫌な鉄臭さが口腔に広がった。後頭部を押さえ込む背後の男に気付かれぬよう、麻痺した歯茎の根元をこっそり舌で探ってみる。派手に血は出ているが辛うじて折れることだけは免れたようだ。 月の居ない晩は、見慣れた部屋の天井も壁も床も唯一色の黒に溶ける。瞬きしても変わらない景色は、闇に慣れた銀瞳さえも翻弄した。 特に今のような、望みもしないのに間近で床を拝まされているようなこんな時は、どこからが床でどこまでが自身の身体なのか分からなくなりそうだ。 腰だけ高く上げさせられたまま容赦なく頭蓋を揺らされる度、底無しの沼にずぶずぶと沈み込んでしまいそうな気がする。 今見ているものは幾度も夢に夢を重ねた幻か、それとも地獄の果てに得た現なのか。 目に映らない真実を確かめさせてくれるのはお前の与えてくれる痛みだけだなどと言ったら、きっと男は罵り嘲りながら、喜々としてこの肌を喰い破るのだろう。 ●還る場所 未だボンゴレは手中になく、かと言ってヴァリアーの首領という地位に甘んじることなど到底出来るはずもない。鬱屈した日々の中で、ザンザスは知らず知らず焦りを感じ始めていた。 ある日、ザンザスはスクアーロが任務の一拠点としている下町の安アパートを訪れる。 「よくここが分かったなぁ!」 「カスが。このオレに隠し通せるとでも思ったか」 「別に隠してたつもりもねぇぜぇ、こんな場所」 いつもと変わらぬ下らない軽口、手加減をする気もない暴力。 無為な日常を繰り返すうち、ザンザスは感情が麻痺し、代わり映えのしない日常に埋没していくような錯覚を覚えていた。 「なぁボス、そろそろ帰ろうぜぇ」 「…ハッ、帰るだと?てめーはどこに帰るつもりだ」 「あ゛ぁ?んなの城に決まってるだろうが」 「帰りたければ勝手にしろ。オレは行かねぇ」 「う゛お゛ぉい!我が儘も大概にしとけぇ!そりゃあお前がどこに居ようとオレは構わねぇがなぁ!こんな固くて狭いベッドで毎晩好き放題ヤられるこっちの身にもなれってんだぁ!」 打ち身だらけの肌を晒しながら喧しく吠えるスクアーロ。 「お前に相応しいのはこんな場末のボロアパートでも、ヴァリアーの根城でもねぇだろ」 望むは唯一、大マフィア・ボンゴレのみ。 「…フン、淫売のくせにベッドを選ぶ気か」 「う゛お゛ぉい!今のは聞き捨てならねぇぞ!」 「うるせぇ。てめーはオレの望んだ場所で黙って脚開いてりゃいいんだ」 例え意に沿わぬ場所でも、羽を休める宿り木くらいの役には立つだろう。 今日帰る場所を蹴り捨て、いざ、真の玉座へ。 ●ルッス命令でスーツを新調させられました 「相変わらず殺風景な部屋ねぇ」 「ほっとけ!(バタンッ)」 「あら?クローゼットにしまったのはそれだけ?このスーツなんてこれからが時節なのに、出しておかないの?」 「あ゛?だから向こうに置いといた方が便利だろ?」 「どこに? なんてもう聞いてあげないわよ私。さっさとボスの部屋に置いてらっしゃいっ!」 「う゛お゛ぉい。なに怒ってんだぁ??」 ●三度目の正直 初めての夜は衝動。次の夜は興味。3回目の夜になってようやく彼は尋ねた。 「なぁ、これって何なんだぁ?」 男は端的に答えた。 「ただの気紛れだ」 そうかぁと納得して、彼は男と初めてキスをした。 ●迷子センターにて 「あなたが落としたのは殴らないボスですか?殴るボスですか?」 「殴らな…くない方が本物だぁ!!」 「てめー今躊躇しやがったな#」 ●夫婦喧嘩 「ざけんなクソボス!」 「うるせぇ!てめーの顔なんざ見たくもねぇ!」 「ハッ上等だぁ!後悔したってしらねぇからなぁ!」 「ボースー。なんか今スクアーロがすげぇ剣幕で飛び出してったけど」 「知るか。放っておけ」 「いいの?前もそう言って2か月くらい行方知れずになったじゃん」 「オレに逆らうとどうなるか、いずれその身に思い知らせてやる」 「…ふーん」 「どうかしたのかいベル、腑に落ちない顔して」 「ボスってさ、なんだかんだ言って、スクアーロが帰ってくることだけは疑いもしないのな」 「なんだ、そんなこと。いつものことじゃないか」 ●厨二全開 銃倉を確認しグリップを握り直す。体内に流れる炎の熱を指先に感じた瞬間、虚空に翻った銀色の閃光が視界を覆った。 喉元に突き付けられた刃を冷たく見下ろし、男は行く道を塞ぐ邪魔者をギロリと睨み据えた。 「…なんのつもりだ、ドカス」 「奴の相手はオレがするぜぇ」 「引っ込め。オレの獲物だ」 「相手は凄腕の剣士なんだろぉ?オレにやらせろ」 針穴の瞳孔に狂気を宿し、大鎌の唇に腐臭を漂わせて銀髪の死神が嗤う。 悍ましさに唾を吐きかけて、男は紅瞳を眇めた。 「…勝手にしろ」 誇りを免罪符に戦いに悦楽を求め、血潮を塗りたくったその身で刹那の勝利を謳う。俗物過ぎて話す気も失せる。 「Grazie!」 許しを得たそれは薄気味悪い笑みさえ落とし、とてもとても嬉しそうに跳ねて行った。 「カスザメが!」 そうして好きなだけ踊り狂っているがいい。誰もが怖れ戦く闇に姿を隠し、新月さえ顔を背けるほど醜悪に。 いずれ斃れ朽ち果てるまで、ただここから見物してやろう。 ●VS復讐者 耳障りな金属音を奏で鋭く宙を切った鎖が真っ直ぐザンザスの方へと走る。 弧を描いたそれが男の首に架かりかけた瞬間、キィンと澄んだ高音が響いた。大蛇が鎌首を擡げるように鎖の先端が勢いよく弾かれ、ジャラジャラと折り重ねるようにして地面に沈む。 「う゛お゛ぉい、何でもかんでもてめぇらの思惑通りになると思うなよぉ」 剣の一振りで復讐者の攻撃を跳ね返したスクアーロが鋸刃のような殺気を剥き出しにして凄んだ。 「そう何度も目の前で掻っ攫われてたまるかぁ!」 強く地面を蹴って攻撃の体勢へ移ると同時に、新たな鉄色の鎖が視界を過ぎる。 先程より動きが早い。躱しきれない。 咄嗟に剣を眼前に構え直すと、凄まじい轟音と共にオレンジ色の炎が中空を貫いた。 今まさにスクアーロを絞め殺さんと狙っていた鉄色の大蛇が、灼熱の業火に焼かれどろりと形を崩して地に落ちる。 驚きに目を見張り肩越しに振り返ると、むっつりと不満げな表情で銃を構えるザンザスの姿を見つけた。 しまったといわんばかりのしかめ顔にスクアーロは思わず吹き出した。ザンザスの眉間にますます縦皺が増える。 「殺すぞドカス」 「やれるもんならやってみろぉ」 ニヤリと笑って見せながら、すかさず撃ち放たれた炎を急所すれすれで躱す。生意気な鮫を仕留め損ねた銃弾は威力を落とさぬまま更に伸び、いつの間にかスクアーロの背後へと迫っていた復讐者の身体を遥か遠くに吹き飛ばした。 「面白くなってきやがった」 高鳴る鼓動が胸の奥を擽り、一秒たりともじっとしていられない。まるで遠足前の子供のようだ。 むずむずと肌を粟立たせる興奮に舌舐めずりしながら、スクアーロはぶるりと大きく身体を震わせた。 さぁ、楽しい時間の始まりだ。 この目が、この声が、この炎がある限り、恐れるものなど何もない。 ●作戦隊長命名秘話 その戦いは、有り得ない光景から始まった。 何の抵抗もなく宙を切った己の拳に、さすがのザンザスも表情を隠せないほどに驚いたようだった。 大きくまんまるに見開かれた暴力上司の目に、してやったりと密かに拳を突き上げて、スクアーロは言った。 「そうそう毎日殴られてばかりいられるかぁ!」 床を蹴って後ろ向きに飛び退り、拳の射程範囲外へと退避する。ついでに口を真横に引き伸ばし、悪ガキみたいにいーっと牙を剥き出して見せたのはほんの出来心というか、軽い悪戯のつもりだった。 「…ンの、ドカスが!!」 それを目の当たりにしたザンザスが、元来低い沸点を瞬く間に飛び越えカッと怒りに目を見開いて鬼と見紛う形相になったのも、まぁ当然の結果というべきだろう。 「待ちやがれカスザメ!!」 「待てと言われて待つわけねぇだろがぁ!」 怒りのあまりうっすらと炎さえ纏った拳がひらりひらりと身を躱すスクアーロを追い掛け回す。 命辛々紙一重でその攻撃を避けながら、スクアーロはSランク任務もしくは名のある剣士との戦いに臨む以上の本気さでザンザスの拳から逃げ続けた。 「う゛お゛ぉい!どうしたボス!息が上がってるぜぇ!」 「うるせえっ!とっととくたばりやがれ!」 「…で、なんなの?あれ」 「S・スクアーロ式ボスのメタボ防止大作戦ですって。最近手ごたえのある任務も減ってきたし、ボスも前線に出ることが少なくなったじゃない?」 「その前に食生活を改善した方が早いと思うけどね。金にもならないのによくやるよ」 「あれでもボスの身体を心配してるのよ。命がけで」 「マジ頭良過ぎてそんけーしちゃうね。これからはバカザメ先輩を讃えて作戦隊長って呼んでやろうぜ」 ●夏バテ注意報 「う゛お゛ぉい!お待ちかねのサーロインだぜぇ、ボスさん」 「遅ぇ!…おい、てめーのそれは何だ?」 「あ?何って、見ての通りのサラダじゃねぇか」 「それしか食わねぇのか」 「最近暑くて食欲が無いんだぁ」 「……」 「んだぁ?あっ!また何か気に食わないとか言い出すんじゃねぇだろうな!?」 「…フン。安物のまずい肉出しやがって」 「あ゛あっ!?ご希望のA5黒毛和牛だぜぇ!まずいわけねぇだろうがぁ!」 「うるせぇ!カスに肉の何が分かる!てめーで食ってみやがれ!」 「んごっ!…(もぐもぐ)…う゛お゛ぉい!すっげぇ美味いじゃねぇかぁ!」 「ハッ!やはりカスザメに味は分からねぇらしいな。残りはてめーで処理しやがれドカスが!」 「おあ゛っ!わかった!食う!食うから顔に肉押し付けんなぁ!」 ●目にゴミが入っただけなのに 「…っ、…ぅっ…」 「おい」 「…っく、なんだよ、ボス」 「てめーなに泣いてやがる」 「ああ゛?別に泣いてねぇよ」 「うぜぇ」(ゴン!) 「っでぇ!いきなり頭突きするこたねぇだろぉ!!」 「止まったじゃねぇか、ざまあみやがれ」 「いやだからこれは、……え゛?」 ●一度はやりたいn番煎じ 賑やかな話し声につられ階下に視線を落とすと、ボンゴレ上層部のおエライさんを先頭に堅苦しい黒スーツで正装した男たちが数人、城の中へと入ってくるところだった。 名前までは知らないがどことなく見覚えのある顔がひとつふたつ並んでいる。察するに、ボンゴレと同盟を組んでいる中小ファミリーの幹部たちだろう。 早くも興味は失せたとばかりに一旦止めた足を再び踏み出そうとしたとき、何気なく巡らせたスクアーロの目にとんでもないものが飛び込んできた。 「んだぁ、ありゃあ゛!?」 思わず声を張り上げ、色素の薄い眼をまんまるに見開いて手すりから身を乗り出す。 最後に入ってきた男が肩に担いでいたのは、一見子供のオモチャにも似た紫色の円筒。だがあれは紛れもなく、正真正銘本物のバズーカではないだろうか。 「う゛お゛ぉい!ずいぶん物騒なモン持ち込んでんじゃねぇか!ここで戦争でもおっぱじめる気かぁ!」 これは面白いことになりそうだと、文字通り高みの見物を決め込むつもりで、そしていざ騒ぎが起これば自分も飛び入り参加するつもりで、スクアーロは広い玄関ホールを見下ろすことのできるバルコニーの端に陣取った。 が、遮るもののない吹き抜けの天井は上からも下からも視界良好。 階下の男たちが何かを囁き合っていると思った次の瞬間、ふざけた紫色の銃口が狙いを定めるのと、スクアーロが唇をアルファベットのOの形に開いたのはほぼ同時だった。 後に考えれば、その一瞬の驚きが命取りだったと言える。本能的に危険を察知したスクアーロが身を翻すより早く引き金は引かれ、何かが当たる衝撃と共に周囲に白煙が立ち込めた…ような気がした。 (中略) 「よく聞け、ドカス」 「あ?」 「これは夢だ」 「ゆめぇ?お前さっきは、なんちゃらバズーカのせいって言ってたじゃねぇか!」 「全部忘れろ」 「う゛お゛ぉい!なんだぁ!?どういうことだぁ!?」 さっきまでボヴィーノだ10年バズーカだと話していたザンザスが、今度はうるさそうに手を振り、頑なに夢だと言い張っている。もう何がなんだか訳が分からない。 獣のように唸りながら頭を抱えてうずくまりかけたところで、スクアーロは何か思い付いたように「あっ」と小さく声を上げた。 「そうだ、この手があった!」 言うなり胸を逸らすようにして背筋を伸ばし、ザンザスの方へと向き直る。そしてじっと覗き込むように男の顔を見つめた。 いつもより大人びた表情、物憂げに結ばれた唇、燃え滾る炎を宿した紅色の瞳。それから…。 「…近ぇ」 額ごと鷲掴みにされた頭を押し退けられながら、スクアーロは込み上げてくる可笑しさを抑えきれなかった。 自分の知っている男の姿とは少し違うところもあるが…変わらない。やはりこの男は間違いなく、あのザンザスなのだ。 「嘘だな!」 「あ?」 「さっき夢だって言ったやつ、やっぱり嘘だったじゃねぇか!」 「てめー、カスの分際でこのオレの言葉を疑うのか」 「時と場合によってはなぁ!」 きっぱりと言い返したのが気に喰わなかったのだろう。ぐっと不機嫌を刻んでザンザスの眉間に皺が寄る。 「ザンザス…お前…、」 そこで一旦言葉を切り、スクアーロはむずむずと震える唇を開いた。 「嘘つくときの癖、10年経っても治ってないんだなぁ!」 言った途端耐え切れずに声を上げて笑い出すと、ザンザスの眉間に寄せられた皺がますます深くなる。だが、今のスクアーロにとってはその表情すら可笑しく思えてならなかった。 「下手な嘘ついてんじゃねぇ、ドカスが!」 「う゛お゛ぉい!間違うなよ!嘘が下手なのはお前の方だぜぇ!」 「かっ消す」 すかさず懐から銃を取り出したザンザスに、スクアーロは慌てて笑いを収めた。 ちらりと時計に目をやれば、さっき真横を向いていた長針が斜めに降りてきている。真実味を取り戻した先刻の話によれば、そろそろ頃合いのはずだ。 眦を濡らす涙を拭って、スクアーロは自身を狙う銃口とまっすぐに向き合った。 「じゃあな、ザンザス」 見慣れないけれど変わらない、永遠に唯一の男。 「答えは10年経ったら教えてやるぜぇ!」 懐かしい男の顔を眺めながら、スクアーロは嬉しそうに笑った。 「よぉボス!戻って一番に会えるとは思ってなかったぜ!」 10年後に飛ばされた自分がザンザスの元へ帰ってきたということはつまり、こっちへ来たはずの10年後の自分がここにいたということだ。 ザンザスもそのことに思い至ったのだろう。苦々しげに顔を歪めて目をそらし、手にしていたグラスを呷った。 「…フン。10年後のてめーが勝手にオレのところへ来ただけだ」 そしてここで何が行われていたのか。まぁ周囲に転がった酒瓶の残骸を見れば大体想像はつく。 「そういやオレも、飛ばされた先はお前の部屋だったなぁ」 「……」 「10年経っても、オレはお前の…ぶふっ!」 最後まで言い終えないうちに、空になったグラスがこめかみを直撃した。 「う゛お゛ぉい!い゛ってぇじゃねぇかぁ゛!」 仰け反った体勢のままかろうじて踏み止まり、ぎゃーぎゃーと喚き散らしながら食って掛かると、スクアーロの髪が――短く切り揃えられた銀色の髪が踊るように跳ねた。 「うるせぇっ。いつまで経っても使えねぇカスザメが!」 「ああ゛っ!?昨日の任務なら完璧だっただろうが!」 「てめーは何年経ってもカスのままだ!」 「それはオレであってオレの話じゃねぇだろぉ!」 鳴らない関節を軋ませるように左手で拳を作り、抗議するように突き上げる。最初はぎこちなかった動作も、今では以前とほぼ変わりなく出来るようになった。 「オレはいつでもやれるぜ、ボス」 最後に少しだけ声のトーンを落とし、スクアーロは勝気で不敵な笑みを浮かべてみせた。 ゆりかご――いずれ人々からそう呼ばれるようになるあの忌まわしき日の、2か月前のことだった。 これは夢だと言った男は、可笑しいくらいに嘘が下手だった。 全部忘れろと言った男は、その先にあるすべてを知っていた。 その日が明日、1ヶ月、1年先だったとしても。 大嘘吐きが教えてくれた、10年後には必ずある、求めてやまない未来。 2012/08/16 [*前へ][次へ#] [戻る] |