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novel
egoismo/駄々っ子22歳と呆れる24歳


「ボス、先日の任務の報告書をお持ちしました!」
 両手で捧げ持つように突き出されたそれを一瞥した瞬間、いっそ燃やしてしまおうかとザンザスは本気で考えた。
 口の中で舌打ちを零し、分厚い書類の束を渋々受け取る。どうせ記載されているのは任務とは名ばかりの雑事報告だ。
 あの忌々しいリング争奪戦は、まだ記憶に新しい。あの日以来、ヴァリアーはボンゴレの中枢に関わる機密任務から外されることが多くなった。だが完全に隔絶されたというわけでもなく、誰の根回しか、ランク外の雑用任務ばかりが休む間もなく回ってくる。だが、そんなくだらない仕事に長たるザンザスが赴くはずもなく、お陰で最近は取るに足らないデスクワークばかりが増えた。
 形だけ目を通してさっさとサインしてしまおうとパラパラと適当に紙を捲っていると、机を挟み直立不動で控えていたレヴィが勢い込んで喋り出す。
「そういえば、先日本部に立ち寄った際スクアーロの姿を見掛けました」
「……」
「何やらこそこそと人目を忍んでいる様子でしたが、あれでは本部の連中に知られるのも時間の問題かと」
「……」
「極秘任務でしたら次からは是非この私に…!」
「知らねぇ」
「は?」
「カスにそんな任務を与えた覚えはねぇ」
 冷たく突き放すように言うと、レヴィは驚きのあまり束の間言葉を失ったようだった。
 ヴァリアーに回される雑事をほぼ一手に引き受けているレヴィならばともかく、実質謹慎中のスクアーロが本部に、それも内密に呼ばれているとなると、その目的は限られてくる。チッと今度は音高く舌打ちし、ザンザスは苛立たしげに吐き捨てた。
「カスがどこで何をしていようと、オレには関係ねぇ」


 ヴァリアーの副官が直々に本部の命令で動いている。そんな噂がまことしやかに囁かれ始めたのはそれからすぐのことだった。


 気まずそうに目を逸らしたのが癪に障った。
 握り固めていた拳を解くと、指の関節がボキボキと鳴った。切れた口元を手の甲で拭いながら、ザンザスに殴り飛ばされ部屋の隅に転がっていたスクアーロがぎこちなく立ち上がる。
「ってぇ゛なぁ゛…問答無用かよ!」
「黙れ。てめーいつからジジイのイヌになりやがった」
「あ゛あっ!?なんでそうなるんだぁ!オレはただ、」
「本部の命令で動いてたと、たった今てめーが認めたことだろうが」
「…っ」
 まただ。また目を逸らした。不愉快さと嫌悪感に眉を寄せ、ザンザスは躊躇いもなく右手を掲げた。
「施しだ。3秒待ってやる」
「あ?」
「言い残すことがあれば3秒で言え」
 噴き上がるオレンジの炎にスクアーロが一瞬息を呑む。次に目を逸らしたら3秒の猶予さえ待たずに消してやろうと思っていたが、スクアーロは忌々しげに顔を歪めた後、唐突に懐から取り出した何かを床に叩き付けた。
「んのクソッタレ!これで満足かぁ!」
 それは一通の手紙のようにも見えた。何も書かれていない白地の封筒に、蜜蝋で封を施してある。箔押しされた紋章は遠目にもボンゴレ9代目のものとしれた。
「なんだそれは」
「Sランク任務。本部からもぎ取ってきた」
「あ?何のためにだ」
「…っ、争奪戦からこっち、クソつまんねぇ任務ばっかで飽き飽きしてたんだぁ!たまには骨のあるやつと戦いてぇだろうが!」
「……」
「大人しく雑用したらS寄越すっつーから、仕方なくだぁ」
 まぁ本部のカス共の監視付きだけどなぁ、と苦々しげにスクアーロが呟く。確かに、ただでさえ腫れ物扱いのヴァリアーにこんなに早く重要任務が与えられるとは思えない。
 これを機に一気に潰しに掛かるつもりか、何かの罠が仕掛けてあるのか。それともこのカスの言う通り、ゴホウビだとでも言うつもりか。
「胸くそ悪ぃ」
「う゛お゛ぉい!そこまで言うことねぇだろぉ!」
「ジジイの施しなど受けるか。てめーらで勝手にやってろ」
「それじゃ意味がな、…っ!」
「あ゛あ?どういう意味だ」
「っ、別に、なんでもねぇっ!」
 慌てて首を振るスクアーロを訝しげに眺めやり、ザンザスはつまらなそうに踵を返した。革張りの執務椅子に腰を下ろすと、机に手をつきスクアーロが身を乗り出してくる。
「なぁボス、行こうぜぇ。このままじゃ身体なまっちまう」
「あ?勝手に行けと言ってるだろうが。オレは知らねぇ」
「ダメだぁ!お前も一緒に行くんだぁ!」
 焦れたように叫ぶ姿は駄々をこねる子供そのもので、ザンザスは呆れたようにスクアーロを眺めた。
 むすっと唇をひん曲げ拗ねたように頬を膨らませているコレが、本当に泣く子も黙る暗殺部隊ヴァリアーの副官だろうか。
「見ろよこの標的!今回の相手ならお前もそこそこ楽しめるはずだぜぇ!」
 あらゆる剣術を吸収した型破りの一撃で敵をなぎ倒し、薄汚い返り血に塗れながら牙を剥き出しにして笑っているこれが。剣士の誇りとやらを掲げて鮫に喰われかけ、なお浅ましく生きているこの男が。
 たかだか紙切れ一枚のために、本部のジジイ共の命令に唯々諾々と従ったというのか。
 何のために?
 …誰のために?
「なぁザンザス行こうぜ!なっ、なっ!?」
「るせえっ!」
 あまりのしつこさと鬱陶しさにこめかみの血管を浮き上がらせると、さすがのスクアーロも気圧されたようにぐっと押し黙った。思い通りにいかず悔しげに唇を噛む。子供っぽいその仕草を蔑むように見遣り、ザンザスは長いため息を零した。
「寄越せ」
「…え?」
「その紙切れだ、さっさと寄越せ」
「お、おう」
 スクアーロが振り回してぐしゃぐしゃになった任務書を指先で摘み上げ、心底嫌そうに言う。
「中身には目を通しておく。てめーはザコどもに実行プランを立てさせろ。…指揮はオレが執る」
「…Si!」
 ガンッと派手な音を立てて開け放たれた扉が、恨めしげに軋みながらゆっくりと閉じていく。疾風のように駆けて行く足音を聞きながら、ザンザスは苛立たしげに舌打ちして封蝋を握り潰した。


Fine.



膝を屈するのは唯一無二の王にのみ。
でもその王のためなら憎悪と悔しさを押し殺して身を削ってしまうんじゃないかと。

というか、鮫がボスの戦う姿を見たいだけかもしれない。

中途半端感がパネェですがこれ以上書いても面白くなさそうなので打ち止めです(笑)

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