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novel
ネッビア・プリマヴェーラ/春コミ無配+α


 眼下に広がるは一面の乳白色。とろとろと揺蕩う朝靄が未だ眠りの中にある古城を埋め尽くしていく。
「さすがにこの霧じゃよく見えねぇなぁ…」
 城を見下ろす崖の上に身を潜めながら、スクアーロは吐息を含ませた声でぼやいた。
「あれが二階の出窓で向こうが厩舎だから、予定の侵入口はあっちでいいのかぁ?」
 小さく指を差しながらぶつぶつと呟いていると、背後でつまらなそうに欠伸をしたザンザスが右手の銃を構える。
「面倒だ。一撃で片を付けてやる」
「う゛お゛ぉい!炎はやめとけぇ!山火事にでもなったら手に負えねぇだろうが!」
 男の手を払い早くも赤橙色に焼けた銃口を慌てて逸らした瞬間、ざっと一気に流れ込むようにして視界が白く埋め尽くされた。たった今触れていたザンザスの腕も、数十センチ先に伸ばした自分の手も見えなくなる。
「……っ、ボス…?」
 思わず零れた呟きは自分でも驚くほど心細く響いた。突然視界を奪われたことよりも、それに不安を覚えているという自身の不甲斐なさに驚愕し、スクアーロは軽いパニックを起こしていたのかもしれない。
「ボス、どこだ?ボス、なぁボスどこにいる?ザンザス…っ」
 きょろきょろと周囲を見回しながら身を潜めていたことも忘れて声を張り上げる。霧の中を手探るようにしてがむしゃらに腕を振り回しても、何も掴むことはできなかった。
 するりするりと指の間を白く冷たい感触が擦り抜けていく。手を伸ばせばそこにいるはずなのに、その姿を見ることも、その手に触れることもできない。
「ボス…っ!」
「動くな、ドカス」
 声が、した。
 酷く呆れながらも、何故か微かに緊張を帯びているような声が。
「ザンザス!」
 その名を呼ぶと、不意に空気が流れ、瞬く間に視界が晴れた。喉から血が出るほどに叫び心臓を掻き破るほどに強く求めていた姿は、あと少し手を伸ばすだけで届く距離にあった。
「ザンザス」
 離れていたほんの一歩の距離を縮め、吐息さえ混じるほどに近付いてから、スクアーロはザンザスの頬にそっと触れた。引き攣れた火傷の痕をなぞると、柔らかな温かさが指先に伝わってくる。ほうっと長い息が零れた。
「…こんなとこにいたのかぁ、ボス」
「フン、てめーが見失ってただけだ」
「あぁ、そうだな。悪ぃ」
「情けねぇ声出しやがって」
「…るせぇっ」
 今更のように恥ずかしくなって視線を逸らすと、城の方からざわめくような声がした。
「チッ、気付かれたかぁ」
「てめーがデカい声出すからだろうが」
「仕方ねぇ、とっとと片付けてくるかぁ!」
 行くぞ、と顎で促してザンザスが先に踵を返す。後に続こうとして、スクアーロはふと後ろを振り返った。
 霧が晴れたお陰でさっきまで立っていた場所がよく見える。崖の先に突き出した岩が乾いて脆くひび割れていた。あと一歩踏み出していたら崩れて落ちていたかもしれないと思うとさすがにぞっとする。
 いやここは、ザンザスが声を掛けてくれて助かった、というべきか。
「カスが、なにしてる」
「おう、今行く!」
 ザンザスの声に引き戻されるようにして、スクアーロは前に向き直った。躊躇うことなく足を踏み出し先へと進む。
 春の霞はいずれ消え、季節は移り変わっていく。
 もう迷う必要などない。
 進むべき道は、始めからここにあるのだから。


Fine.



春コミ・XSプチお疲れ様でした!有難う御座いました!


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あきゅろす。
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