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novel
白花の地を溶かせ2†
「クソっ!」
 半ば自棄っぱちな気分で、スクアーロは執務机の天板に片足を乗せ上げた。両脚の感覚はまだ麻痺したままで、無惨に噛み切られた傷痕ばかりがじくじくと鈍く疼いている。
 気だるげに髪を掻き上げ、筒状にした手のひらで自身を包み込む。慣れた手付きで数度それを扱くと、既に限界まで張り詰めていた先端からじわりと白濁が滲み出した。
 そこでようやく、スクアーロはザンザスがまだ部屋の中にいることに気付いた。
「んだぁ?まだいたのか、ザンザス」
「人の机でおっぱじめやがったドカスに、どんな仕置きをしてやろうか考えてたところだ」
「ハッ!さっきまで散々汚しておいて今更だろうがぁ」
 とはいえ、相手に見られながらの自慰というのも些か具合が悪い。幾度となく身体を重ねておいてそれこそ今更だが、早く出て行ってくれないものかとスクアーロは気まずげにうろうろと視線を彷徨わせた。
 ぎこちなく腰を揺らしながらチラッとドアの方を見遣ると、ザンザスが何か思い付いたようにニヤリと口端を吊り上げた。
「さっさと始めろ」
「は?」
「オレの目の前でマスかいて無様にイってみせろ。そうすれば慈悲をくれてやる」
 厳然たる支配者。王の気品すら纏う男が口にした卑猥な言葉に、カッと全身の血が沸騰する。とうに捨てたはずの羞恥心が瞬く間に湧き上がって、スクアーロは悲鳴にも似た声を上げた。
「う゛お゛ぉい!冗談じゃねぇ、何考えてんだぁ!」
「どうせ見られてたほうが感じるんだろうが、ド淫乱」
「な゛っ!誰がだぁ!」
「突っ込むものが欲しければジジイが寄越した万年筆を使え」
「てめ…っ、ふざけんのも大概にしろぉお゛おお!」
 誰がそんなことするかとギャアギャア喚き散らしてみても、ザンザスはドアに背を凭れゆったり見物を決め込む構えだ。
「ごちゃごちゃうるせぇ、さっさと始めろ」
 ついには面倒臭そうにくいっと顎をしゃくられ、完全に退路を断たれる。絶望の深淵に身を浸す気分を味わいながら、スクアーロは勘弁してくれと天井を振り仰いだ。
 これ以上の抵抗は体力の無駄だ。ザンザスの要求を満たす以外、この状況から解放される術はない。クソッタレと口の中でだけ罵り、性懲りもなく未だ硬度を保っている自身に仕方なく手を伸ばす。
「…んっ」
 裏筋、付け根、先端。単なる生理的欲求を処理するときのように、感じる場所だけを選んで擦り上げる。機械的に手を動かしていると、そこは男の性たるもので何とか快感を追うことが出来た。
 だが、ザンザスの視線が気になって集中しきれないせいか、最後の一線をなかなか越えられない。あと少しのところで否応なく現実に引き戻される。
 せめてもの抵抗とばかりに、スクアーロはぎゅっと目を閉じ、無遠慮な見物人の姿を無理矢理視界から締め出した。てっきり咎められるかと思ったが、ザンザスは何も言わなかった。
 先刻からずっと、ザンザスは何も言わずただ眺めているだけだ。敏い男のことだから、そうすることで余計にスクアーロが意識することを分かっているのかも知れない。
「は…っ、ふぁ゛…っ」
 見えていない筈なのに、ザンザスの視線が、両脚の間にじっと注がれているのが分かる。
 高貴なる紅色の双眸が、自身の最も浅ましい場所を見据えている。その事実が奇妙で倒錯的な興奮をもたらす。
「あっ、やめ…あっ、あっ、あ…っ」
 単調に動かしていた筈の右手は、いつの間にか男に与えられた悦楽の記憶をなぞり始めていた。早く、遅く、強弱を付けながら裏筋を擦り上げる。太く張り出した先端は痛いくらいにきつく揉み潰す。ぷつぷつと白濁が盛り上がったところで、緩んだ蜜口に爪先を喰い込ませる。
「ん…っく、ぁ…ああ゛っ!」
 瞼の裏が白く明滅して、びくりと跳ねたそこから勢いよく白濁が噴き出した。焦らされた放埓は長く続き、下腹を伝い落ちて銀の叢を淫靡に彩る。
 はっはっと苦しげに短い呼吸を繋いでいると、思いがけずはっきりした声が耳元に届いた。
「おい、カス。イった瞬間、誰のことを考えてやがった?」
「っ!」
 弾かれたように目を開けると、じっとこちらを見つめていたザンザスの視線に捕らわれる。
「ちが…っ、オレは…!」
 たちまち羞恥に顔を焼いたスクアーロの答えを待たぬまま、ザンザスは喉奥でくつくつと笑って踵を返した。
「まぁいい、続きは夕飯の後だ」
 あまりに自然な流れで言われたものだから、こちらは危うく聞き逃すところだった。
「う゛、う゛お゛おぉぉい!続きってなんだぁ!!」
「カスが、もう忘れたのか。今の罰は机を汚した分だ」
「!」
「さっきオレの昼寝の邪魔をした償いがまだ終わってねぇ」
「んな゛っ!」
「最期の晩餐を味わわせてやる。床に這い蹲って慈悲深いオレに感謝しろ」
 言いたいだけ言って満足したのか、ザンザスは振り向きもせずに部屋を出て行った。
 ぐしゃぐしゃに乱れた隊服の上で無様な白濁に塗れたスクアーロを、ひとり部屋に残したままで。
「て、め…、待ちやがれこのクソボスがぁあ゛あ゛あっ!!」
 ぶわりと目に見えるほどの怒気を迸らせたスクアーロは、男の理不尽な要求に断固抗議すべく勢いよく執務机から飛び降りた。…つもりで、つんのめるように床に転がった。
 すっかり忘れていたスクアーロの両脚は、まだじんわりと重たく痺れている。これではまだしばらく、立ち上がることさえままならないだろう。それに、じゃれかたを学んでいない獣が加減という言葉すら知らなかったせいで、あちこち噛み切られた傷も手当しておかなければ。
 白地に飾られた色とりどりの薄気味悪い装飾を、スクアーロは恨めしそうに見下ろした。
 だが、太腿の内側にどれほどの痕を付けられようと、誰に見せる場所でもないから服さえ着てしまえば隠し通せる。このことを知っているのは当事者の二人だけで済むわけだ。
「ざまあみやがれ」
 ずるずると引き寄せた上着で見るも無惨な下肢を覆い隠し、スクアーロはフンと勝ち誇ったように笑った。


 その抜けるような白には、まだ誰の手垢も付いていなかった。
 戦いの古傷も目障りな誓いの証もない、純白の処女地を初めて犯す征服感。
 愚民はそれを執着と呼ぶのだと、壇上の王は永久に知らない。


Fine.


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あきゅろす。
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