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novel
visitatore/リハビリXS
   

 ぷつぷつと寄せ集められた水滴が、冷えたグラスに新しい筋道を作る。伝い落ちたそれは行く当てもなく底に溜まり、いずれは乾いて消えてしまうだろう。
 乾したグラスに酒を注ぐのも面倒で、ザンザスは私室のソファにゆったりと身を沈めた。瞼を閉じて視界を遮断し、わざと呼吸を深くして夜の深い眠りを手繰る。
 止め処ない思考に意識を浸しかけたところで、ザンザスはすうっと片目を薄く開けた。
 …またか。
 声には出さず呟き、扉の方へちらりと視線を投げる。
 足音と存在を完璧に殺し、空気の流れさえ乱さずにこちらへと近付いてくる一つの気配。常人ならは気付くはずもない。或いはヴァリアーの幹部ですら気付ける者はいないかもしれない。
 だが、ザンザスにはそれが分かった。
 愚かとしか言いようがない。これ程までにこちらの神経を逆撫でし、苛立たせ、腹立たしく不愉快な気配を、どうして毎夜毎夜隠し通せると思うのか。
 その不愉快の塊は、気配を殺したままザンザスの私室の前でぴたりと足を止めた。
 1、2、3、4…、
「…dieci」
 きっかり10秒を数えたところで、深夜の訪問者は物音一つ、言葉一つないままに再び来た道を戻って行く。
「カスが」
 鬱陶しかった気配も完全に遠退き、妙に清々しい気分でザンザスは悪態を吐いた。
 名も知らぬ深夜の訪問者が毎夜何の目的で通っているかなど、そんなつまらないことは知らないし知りたくもない。
 ドア越しに伝わるはずのない鼓動も、指先にすら感じられぬ呼吸も、何の意味もない。
 だから今宵も、声は返らない。


Fine.



リング戦後、ボスと鮫のリハビリ。私もリハビリ。


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