novel
bugie/XS'mas
※ぬるいですがそれっぽい描写がありますので、15禁とさせて頂きます。皆様のご理解とご協力を宜しくお願い致します。
月は陰に隠れ雲は天に留まり、漆黒の帳からは僅かな星の瞬きさえ失われていた。
煌びやかなオーナメントがもたらす酩酊は黄金色のシャンパンよりまろやかで、心奥に封印した扉の鍵穴をとろりと熔けさせる。
「Ti amo」
まるで、休日の露店で気に入りのパニーニを注文するように、彼は言った。
「Anch'io」
よほど機嫌が良かったのだろう、全く気の入っていない棒読みで、それでも男が答えを返す。
しばし呆気に取られたように瞬きして、彼はぶふっと吹き出した。男の首に腕を回し、腰に両脚を絡めた体勢のまま顔を背けて笑い転げる。
「う゛お゛ぉい!まさかノってくるとは思わなかったぜぇ!」
「うるせえドカス。ただの余興だ」
げらげらと品の無い笑い声に眉を顰め、男は不快そうに鼻を鳴らした。ゆらりと滲む怒りの波長になんとか笑いを収めてから、彼は「惜しいことしたぜぇ」と吊り上げた唇に緩やかな弧を描いた。
「明かりでも点けときゃ良かったなぁ。オレも、なんて言うお前の顔見てみたかったぜ」
「てめーこそピロートークなんて柄じゃねえだろうが」
「まぁなぁ」
余韻に喉を震わせながら彼が可笑しそうに目を細める。
「暗くて何も見えねぇから、揶揄いたくなった」
回した腕を解き、自分に伸し掛かっている男の身体を手探りで確かめる。逞しく張った頑丈な肩、しっとり汗ばむ広い背中、強健な筋肉に守られた拍動する頸動脈。
「調子に乗ってんじゃねえ」
猫の子にでもするように顎をくすぐる悪戯な手を止めさせ、男は腰に回させていた両脚を抱え直した。
「この状況で、何か見る必要があるか?」
胸元に膝頭を押し付けると、彼が喉奥を詰め吐息だけで呻く。
暗闇の向こうで微かに頷く気配を感じ取れば、そこから先には言葉も要らなかった。
なんと埒もない。
夜陰に紛れた睦言など所詮ただの戯れ言、朝日と共に消え行く泡影。
例え彼らが、闇に生きる暗殺者の目が、互いに見えぬはずの真実を捕らえていたとしても。
交わす体温だけが真実。他愛のない遊戯。
それは全て、聖夜の幻。
Fine.
不器用な大人たちは嘘つきです。
Buon Natale!!
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