novel venere/10代ザンスクMK5 短く跳ねた銀髪に生乾きの無様な返り血をこびりつかせ、やけに満足げな顔で皺くちゃの報告書を突き出してきた小生意気な生き物を、ザンザスは容赦なくバスルームへと叩き込んだ。 あれから20分は経つが、スクアーロはまだ戻ってこない。ちらりと見上げた時計の針がさっきからほとんど動いていないのに気付き、ザンザスはチッと舌打ちして執務椅子を引いた。 豪奢なシャンデリアの明かりが突然消えたのはその時だ。 一瞬世界が闇に包まれる。反射的に神経を研ぎ澄ませてみたが、殺気の類は感じられない。どうやら敵の襲撃というわけではなさそうだ。 「停電か?」 ザンザスが窓越しに城内の様子を確かめたのと、バスルームの扉が勢いよく開いたのは同時だった。 「無事かぁ!ザンザス!」 「ドカスが。誰に向かって口をきいてる」 倒けつ転びつ飛び出してきたその影を、ザンザスは容赦なく蹴り倒した。 「い゛っでえ゛ええええ!」 靴底が当たる寸前ちゃっかり腹を引いて衝撃を和らげたくせに、大袈裟な悲鳴を上げてスクアーロが床を転がる。暗闇に慣れた暗殺者の眼球で白い塊を捉え、ザンザスは眉を顰めた。 「見苦しい。なんだその格好は」 薄闇の中でもがくスクアーロは、下着どころかタオルの一枚すら身に着けていない。不快そうに顔をしかめると、先刻の悲鳴はどこへやら、ひょいと腹筋だけで跳ね起きたスクアーロが顔についた水滴を右手で拭った。 「緊急事態だったんだから仕方ねぇだろぉ?」 いきなり電気が消えてびっくりしたぜぇ、とザンザスと同じように窓から外の様子を確認し、スクアーロが肩をすくめる。細い肩から伸びた左右の腕は、奪われた視界の中でさえはっきりと長さが違っていた。 先日注文した義手が届くまではあと2日ほど掛かるらしい。知りたくもなかった情報が脳裏を過ぎったのは、近頃この喧しいカスザメが所構わずザンザスに纏わりついていたせいだ。 だからこそ、ザンザスは片手を失ったばかりのスクアーロに任務を与えた。単独のAランク任務は新人として異例の大抜擢で、しかもあのテュールを破った剣士となれば内外からの注目度も自ずと高くなる。下から上がってきた任務成功率は通常ならとても実行に移せる数値ではなかったが、ザンザスに迷う要素など一つもなかった。 これで目障りな虫を排除出来ると思った。誓いだのなんだのとくだらぬ戯言をほざく下等生物は、自身の手駒に必要ない。 だが、予想は不愉快な方向へと裏切られ、スクアーロは生きて戻ってきた。自身の成功を微塵も疑わず飛び出し、片手でも手応えはあったと言わんばかりの嬉しそうな表情を浮かべてこの執務室に舞い戻ってきた。 じっと無言で見下ろすザンザスの視線にたじろぎもせず、スクアーロは堂々と自身の裸体を晒している。 「別にいいじゃねぇか、男同士なんだし」 不意にするりと忍び込んできた月明かりが、色素の薄いスクアーロの身体を不気味に白く浮き上がらせた。未発達で痩せた身体は肉付きが悪く、生白い肌はお世辞にも綺麗とは言い難い。 いもしない神は、何故こんな男を現世に繋ぎ止めておくのだろう。 欠けた左手ですら、魂の瑕瑾にはならないとでもいうつもりか。 厭わしさにますます眉間の皺を深め、だがザンザスは何かに導かれるように自身の手を伸ばしていた。 「ザンザス?」 呼ばれたとでも思ったのか、スクアーロは躊躇いも疑いもせず、男の手に醜く無様な裸体を差し出す。 誰の手垢も付いていない大理石を、自身の靴底で踏みにじるような。 誰の足跡もない雪の上に、薄汚いどぶ鼠の血汁をぶちまけるような。 例えばこれは、そんな衝動。 Fine. マジでキレる5秒前。(性的な意味で) ちなみに恋でも可。 [*前へ][次へ#] [戻る] |