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novel
uchiwa/誰これザンスク?


 気配を殺し息を潜め、脈打つ鼓動さえ制御して、スクアーロはソファの後ろからザンザスの顔を覗き込んだ。
「もう寝た…か?」
 そっと声に出してみたが反応はない。ぎしぎしと軋む背筋を伸ばしながら深く息を吸い、音を立てずに溜息として吐き出す。やれやれと上げていた手を下ろすと、背もたれの上に丸く切った厚紙がぱたりと落ちた。団扇と呼ばれるそれは、ジャッポーネでは夏に良く使われる風を送るための道具らしい。
「手を休めるな、ドカス」
「げっ!まだ起きてやがったのか、ザンザス!」
 嫌そうに顔を引きつらせ声を上げると、だらりとソファに寝そべった男が閉じていた瞼を開いた。ギロリと鋭い眼光はまったく眠気を催しておらず、先刻落ち着いたと思った寝息も偽りだったと知る。
「オレが眠るまで扇げと言ったはずだ」
「う゛お゛ぉい!こっちはもう30分も扇ぎ通しで腕が痺れてきてんだぁ!」
「ハッ、それでも剣士か」
「剣士に団扇関係ねぇだろ!」
 握った団扇でバシバシと背もたれを叩くと、ザンザスが鬱陶しそうに目を眇める。
「大体こんだけクーラー効いてんだから風なんかいらねぇだろうがぁ!」
「うるせぇ」
 のそりと起き上がりざまに見上げる眼光で凄まれ、スクアーロは一瞬息を呑まざるを得なかった。気だるげに髪をかき上げたザンザスが、くいっと顎をしゃくってソファの端を示す。
「こい」
「…は?」
「二度は言わねぇ」
 反論する隙も与えないザンザスの声音に渋々ソファの後ろを回り、スクアーロは男が頭を乗せていた辺りにぎこちなく腰を下ろした。
「これでいいのかぁ?」
「……」
 何をする気だと見返していたザンザスの顔が、不意に視界から消えた。
「っ!?」
 あれ、とスクアーロが瞬きしたのと、膝の上に硬い重みを感じたのはほぼ同時だった。
「おま、ザンザ、な、なにしてんだぁっ!?」
「うるせぇ。家具は黙ってろ」
「家具って、お前、これは、」
 世に言う膝枕とかいうやつではないだろうか。
 動揺しまくって途切れ途切れの単語しか言えないスクアーロをよそに、ザンザスが更に無茶な追加注文を下す。
「扇げ。オレが眠るまでだ」
「ってこのまま寝る気かよ!」
 悲痛に叫ぶスクアーロを睨み上げ、男は脅すように左手を翳して見せた。
「使えねぇ家具はかっ消す」
「う゛お゛…お゛っ、お゛ぉ゛ぉ゛い!!!」
 しどろもどろに喚き散らす家具を無視し、ザンザスが目を閉じる。いっそこのまま頭を蹴り上げてやりたい衝動に駆られながら、スクアーロはクソッと吐き捨てて再び団扇を持ち直した。
 快適に効いていたはずのクーラーが、今はやけに温い風しか送ってこない。身動ぎできない代わりに恨みがましい目で空を睨み、スクアーロはパタパタと忙しく団扇を扇いだ。
 熱く火照った頬は、まだ冷めない。


Fine.



残暑お見舞い2010。


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あきゅろす。
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