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novel
insalata/ザンスクギャグ


 泣く子も黙るヴァリアーの幹部が、命令もなしに全員揃って朝食の席に着いている。これを奇跡と呼ばずして何と呼ぶのだろう。更にそこへ、傍若無人傲岸不遜の権化たるボスことザンザスまでもが揃っているともなれば、この光景を目にしたメイドや部下たちが何か大掛かりな戦争でも始まるのかと固唾を呑んで見守りたくなるのも無理はない。
 だがしかし、ぴんと固く張り詰めた城内の緊張に気付いているのかいないのか、本人たちの様子は普段と変わらず至って呑気なものだった。
「う゛お゛ぉい!ベル!堂々と人の皿に人参放り込んでんじゃねぇ!」
「あ?何言ってんの。ちょっとでも栄養摂らせてやろうって王子の優しさじゃん。昨夜も遅くまで激しかったみたいだし」
「っ!てめっ、なんでそんなこと知って…」
「んもう、ダメよベルちゃん。好き嫌いなんかしてたら良い身体になれないわよ」
「べつになりたくねーし。つか朝からワイングラスでプロテイン飲むオカマって絵的にどーよ」
「んまっ!口の減らない子ね!」
「全く、食事の時くらい静かに出来ないのかい?次喋ったら罰金払って貰うからね」
「そうだ!貴様らボスの御前で騒」
「「「「罰金」」」」
「いきなり団結!?」
 悲愴な抗議の声を上げたレヴィの皿に、ベルが今度はピーマンを放り投げる。むきになって怒るレヴィをベルが更にからって、騒ぎはいっそう収拾がつかなくなった。
 そもそもお前が、などとレヴィが向けてきた矛先に噛み付き返したところで、スクアーロは傍らから聞こえてきたガタンという音にチラリと視線を投げた。皿の上に丸々残ったサラダが目に入り、反射的に声を上げる。
「う゛お゛ぉい!てめーもちゃっかり残してんじゃねぇ!」
 その瞬間。ぴきーんと一瞬にして食卓が凍りついた。
「…あ゛」
 はっとしたスクアーロが今更口を押さえみても、一度出てしまった言葉は取り消すことが出来ない。さーっと全身の血が引く音を聞きながら、スクアーロは恐る恐る顔を上げた。
「ボ、ボス…」
 そこには、たった今席を立ったばかりのザンザスが、万年雪に覆われた氷原のような無表情でこちらを見下ろしていた。
 その時何故あんなことを言ったのか、スクアーロ自身にも良く分からない。後で思えば、頭が混乱してマトモな思考が出来ていなかったのだと思う。
 だがごくりと喉を鳴らし、スクアーロは言った。
「…野菜は、大事だろ…」
 直後、振り上げられた椅子が視界を過ぎったのと同時に、スクアーロの意識は途切れた。


「んもう、あんまりびっくりさせないでちょうだい!」
 拳で氷の塊を砕きながら、ルッスーリアは頭を抱えソファにうつ伏せるスクアーロに言った。
「ボスを叱り飛ばすなんて、命がいくらあっても足りないわよ」
「う゛ぅー…」
 ルッスお手製の氷嚢を慎重な手付きで頭に乗せながら、スクアーロが呻く。
「反射的に言っちまったもんは仕方ねぇだろうがぁ」
「僕ならSランク報酬5倍積まれたってお断りだね。命あっての物種さ」
「勇気あるじゃん、スク先輩。つーかただの馬鹿?」
「てめぇら好き勝手言いやがって…」
 氷嚢の下から睨んでみても、威圧感の欠片もない。向かいのソファにちょこんと腰掛けていたマーモンが、どこか面白そうに言った。
「ま、直撃を免れて良かったじゃないか。手元が狂うボスなんて珍しいものも見れたしね」
「あ゛ぁ!?あれのどこがだぁ!」
「そうでなきゃあなたとっくに死んでるわよ、スク。自分が殴られた椅子の大きさ、ちゃんと見た?」
「惜しかったよなー。怒りのあまり勢いがつき過ぎたってやつ?」
「というより、」
 そこで一旦言葉を切り、ルッスーリアは口元に手を当てて小さく笑った。
「びっくりしたんじゃないかしら。スクアーロに叱られるなんて、ボスも思ってもみなかっただろうし」
 確かに野菜は大事よね、とわざとらしくにやけるルッスーリアに舌打ちして、スクアーロはクッションにぼふっと顔を押し付けた。
「もう二度と言わねぇクソッタレ」
「あらダメよそんなの。野菜はちゃんと食べて貰わないと。ボスのお食事ってお肉に偏りがちだから前から心配してたのよ〜」
「ならてめぇで言いやがれ!オレは絶対言わねぇからなぁ!」
「ヴァリアーのボスがメタボにでもなったらどうするんだい?ボスの体調管理は次官の仕事だろ」
「都合の良い時だけ次官呼ばわりしてんじゃねぇ!」
「精々頑張れ、DV担当」
「誰がだあああっ!!!」

 当たり前に過ぎていく時間は、確実に刻一刻と積み重なっていく。
 目に見えぬ程の距離を縮めながら、ゆっくりと。いつしかその手が、触れてしまうくらいに。


Fine.


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