novel ■lime verde melodia 空色に双翼の輪郭をくっきりと浮かび上がらせた飛行機が、白い尾を引いてゆっくり飛んでいく。立ち昇るカプチーノの湯気に顎をくすぐらせながら、スクアーロは何をするでもなくぼんやりとその光景を眺めていた。 「暇だぁ…」 柔らかなソファにだらりと寝そべったままぽつりと呟くと、傍らからくすくすと笑う声が聞こえてくる。ジロリと視線だけ流すと、無駄に上品な仕草でカンノーロを切り分けたルッスーリアが口元に柔らかな笑みを湛えてこちらを見ていた。 「んだぁ、その顔はぁ」 「ふふっ、だってスクったら、いつも忙しい忙しいって文句ばかり言うくせに、いざ暇になるといつもそれなんだもの」 「そいつは悪かったなぁ!」 痛いところを衝かれ、半ば八つ当たりに近い気分で大声を張り上げる。朝から始めた剣の手入れはもう随分前に終わってしまっていて、他にすることがないのは事実なのだから仕方ない。 任務と100番勝負で世界中を駆け回っていた頃には気付かなかったが、無理矢理に取らされた休暇をこうしてただ無為に過ごしていると、所詮自分には何もないのだと実感させられる。空いた時間に費やす趣味も、持て余した暇を潰す術も、剣以外は何も持たぬままここまで来てしまった。雑誌を積み上げファッションチェックとやらに勤しんでいるルッスーリアが、不覚にも生まれて初めて羨ましく思えた。 今に鼻歌でも歌い出すのでないかと思うほど楽しそうなルッスーリアに恨めしげな視線を向けていると、突然けたたましいメロディーが鳴り響いた。 「キャッ!何なに〜!?」 驚いてキョロキョロと辺りを見回すルッスーリアをよそに、スクアーロはガバッと跳ね起きて懐から携帯電話を取り出した。画面を確かめるまでもない。こういうときのために着信音は個別に設定してある。 0コンマ数秒の速さで応答ボタンを押し、スクアーロは携帯電話を耳に押し当てた。Prontと最後まで言い終わらないうちに、恐ろしく不機嫌な声が鼓膜を鈍く響かせる。 「遅え」 「どこがだぁ!言われた通りにワンコールで出ただろうが!」 「うるせえ。ワンコール鳴り終わらないうちに出ろ」 「無茶言ってんじゃねぇ!」 しょうもない言い合いをしながら、スクアーロは受話器越しに聞こえてくるザンザスの声を妙に心地良く感じていた。普段デスクワークの多いザンザスが珍しく各方面の視察に出ていたから、声を聞くのは4日ぶりだ。 「良いテキーラが手に入った。帰るまでにつまみを用意しておけ」 「あ゛ぁ!?なんでオレが!」 「施しだ。てめーにもこいつを味わわせてやる」 「どうせまた馬鹿みたいに強い酒なんだろうが!オレは遠慮しとくぜぇ!」 「カスに拒否権はねえ」 言うなりプツッと音声が途切れる。 「んの、クソボス!人の話を聞きやがれぇ!」 虚しく沈黙した携帯電話を睨み、スクアーロはソファ目掛けてそれを思い切り投げ付けた。 「あらまあ、その様子だともうすぐボスが帰ってくるのね」 その声に顔を上げると、すっかり存在を忘れていたルッスーリアが、面白いものでも見るように目を細めて笑っている。 「酒に合うつまみを用意しとけ、だと。そんなものオレに分かるわけねぇだろうが」 「うーん、そうねぇ…」 ザンザスの好むテキーラに合いそうな料理をいくつか挙げてみせ、ルッスーリアはスクアーロのためにライムを多めに用意しておくことを勧めた。 「あなたもお付き合いするんでしょ、大変ねえぇ〜」 「他人事だと思って笑ってんじゃねえルッスーリア!…酒は嫌いじゃねぇが、ボスのペースに付き合ってたらこっちの身が持たねぇ」 また酔い潰されたら明日の任務に響く、などとぶつくさ呟いていると、ルッスーリアが気色の悪い笑顔を浮かべてこちらを見ているのに気が付いた。 「う゛お゛ぉい!不気味なニヤケ顔でこっち見てんじゃねぇ!レヴィかてめぇは!」 「んまぁ失礼ね!マンマの温かい眼差しとあのニヤニヤ笑顔を一緒にしないでくれる!?」 「誰がマンマだぁ!!」 穏やかな休日の昼下がりを、ギャアギャアと喧しい喚き声がぶち壊していく。 こんな光景を日常と呼べるなら、何も持たず生きてきた時間を幸福と呼ぶのも、悪くはない。 「そういえばスク、さっきあなた、ボスの着信音に変なメロディー設定してなかった?何だか凄く聞き覚えのある曲だったんだけど」 「おう、こいつかぁ!某有名SF映画で黒い仮面の男がシュコーシュコー言いながら登場するときに流れるアレだぁ!あの俺様我儘クソボスにぴったりだろ!?」 「…ほう」 「あら、おかえりなさい、ボス」 「げっ、ザンザ…」 「殺れ、べスター」 「んぎゃあああああっ!!」 Fine. 10-18 22:33 ほのぼのリクエストの方へ捧げますw ありがとうございました! [*前へ][次へ#] [戻る] |