novel presente/ベルマモ 「ん」 「帰ってくるなりなんだい、その手は」 「今日王子の誕生日。だからプレゼント寄越せ」 突き出した手をひらひらさせると、小さな三角を模った唇が可愛くない溜息をつく。 「やれやれ、僕の誕生日には舐めかけの飴を押し付けてきたくせに、自分のときは随分図々しいじゃないか」 呆れを通り越し諦念を滲ませたマーモンの口調に、ベルはニヤリと笑って見せた。 「とーぜん。だってオレ王子だもん」 「はいはい。どうせ今年もルッスーリアがケーキ作って待ってるんだろうし、何だかんだ言ってレヴィやスクアーロもプレゼントを用意してくれるよ」 「んなこと分かってるっつの。だから最初はマーモンのプレゼントを徴収しにきたんじゃん」 「まったく仕方ないね」 不満げに口を尖らせると、マーモンが渋々といった様子でポケットを探る。 「はい、5円チョコ」 掌にぽとりと落とされたのは、懐で温められた小さな包みだ。少し溶けて形が崩れている感じとか、外装フィルムの皺くちゃ具合とか、何故かあり過ぎるくらい見覚えがある。 「ふざけんな。今年もこれだけだったらマジ殺す」 「去年も今年も来年もずっとこれだけさ。貰えるだけ有難く思いなよ」 フンと鼻を鳴らしたマーモンに、ベルはぴしりと指を突きつけた。 「んじゃ今年もぬいぐるみの刑決定な。パーティーの間中ずっとオレにいじられとけ」 今更抵抗するのも面倒だと思ったのか、マーモンが仕方なさそうに肩を竦める。 「言っとくけど今までのプレゼントは全部ツケだからね。いつかまとめて返して貰うよ」 「言ってろ、クソチビ」 ふと意識が途切れて、ベルは目を覚ました。 「…なんだ、夢か」 確かに掴んだと思った両腕は自分の身体に回されていて、薄い横縞のシャツは痩せて浮いた肋骨の存在を思い知らせる。 「つまんねーの。もうちょっとだったのに」 のそりと寝返りを打ち、ベルは自身の肋骨にぎりりと爪を立てた。目を閉じれば、さっきまで見ていた夢の残滓を辿ることができた。 「10年経ったら一括払いさせるとか喚いてたくせに、結局取り立て損ねてやんの」 瞼にふわふわと映る影に向かって、ベルはフンと鼻を鳴らしてやった。 「…バーカ」 抱き締め損ねた腕の中には、小さくて温かくてムニムニしたものの感触が残っている。 大丈夫。 この腕がまだ、覚えている。 Fine. [*前へ][次へ#] [戻る] |