※1年後捏造 日本の桜は美しい。きっとこれは何年経っても変わることはないのだろう。ひらひらと舞う桃色が視界を染める。 「斎藤」 そう言った俺の声は思っていたより落ち着いていて。目の前の斎藤は泣きそうに眉を下げていたけれど、俺が名を呼べば、はいとはっきりとした声で返事をした。 「お前の方が年上なのに俺が先に卒業するなんて変な感じだな」 そう笑って言えば、斎藤も泣きそうに顔を歪めながら弱々しく笑った。 「兵助くんが置いてくから」 「置いてく訳じゃねえよ」 刹那、風が強くなり視界いっぱいに桜の花弁が舞った。隙間から見える金色が酷く儚く思えた。 「先に行ってるだけだ」 「…うん」 「待ってるからな」 「…う、ん」 そう呟いて斎藤は俯いた。さらりと金の糸が肩から流れる。出会った頃と変わらない綺麗な髪だ。桜と一緒でこの先もずっと、この金色は美しいのだと思った。 「斎藤」 髪の毛に付いた花びらを取ってやって俺は静かに斎藤の名前を呼ぶ。顔を上げた斎藤の目には涙がいっぱいに溜まっていた。 「もし、この先戦場で会うようなことがあれば、俺のことは忘れろ」 ついに零れた斎藤の涙は、ゆっくりと頬を伝い地面に吸い込まれていった。 「兵助く、」 「でも」 俺の名を呼ぶ、その震えた声を遮る。 「もし戦場じゃない場所で出会えたら、その時は、待ってたぞって、言ってもいいか?」 そう言えば、斎藤は泣き顔のままふにゃりと笑って言った。 「そうしたら僕は、お待たせって言ってあげるね」 日本の桜は美しい。 20100717 ぶつ切り感が否めない… |